ブログ詳細

株式市場の規律は維持されているか? 安田 正敏

2011年02月18日
オリンパス粉飾事件の関係者が逮捕されましたが、この事件への対応について未だに大きな疑問が残る点が一つあります。東京証券取引所のオリンパスの株式の上場維持判断です。 しかし、東京証券取引所による株式市場の規律は維持されているのでしょうか?
2月16日、オリンパス粉飾事件に関与した容疑で菊川剛前社長をはじめとする前役員3名と外部協力者等が逮捕されました。これで、事件の全容解明に向けて大きな進展が期待されますが、この事件への対応について未だに大きな疑問が残る点が一つあります。それは東京証券取引所(東証)が「監理銘柄(審査中)」に指定されていたオリンパスの株式を1月21日に指定解除したことです。

この点に関し、逮捕翌日17日の朝日新聞朝刊の報道を見ると、東証と証券取引等監視委員会(監視委)が阿吽の呼吸で対応していったことが窺えます。「『刑事立件すると上場廃止になる可能性がある。優良企業を捜査でつぶすことはできない』。こうした懸念がぬぐえない中で、監視委は当初、法人としてのオリンパスの刑事告発をためらい、行政処分の課徴金だけにとどめようとしていた」ところ、東証が、「『1月に株式市場への影響が重大ではなかった』などの理由で上場維持を決めると潮目が変わった。監視委は今後、法人としての同社を告発する方針を固めた」と報道しています。これは、オリンパスという優良企業を市場から退場させることによる経済的損失をなんとか防ぎ同時に市場の規律を貫徹させるという役割分担を東証と監視委が分かちあったとも勘ぐることができます。あるいは、東証の措置と行政処分だけで終わらせれば日本の株式市場に対する国際的信用をますます失うので、監視委が最後に規律を示したのかもしれません。
いずれにしても、東証のオリンパスの株式の監理銘柄指定解除の理由は釈然としません。1月20日付の東証の告知を見ると、概ね次のような論旨です。

  • 「一連の行為」は、「一部の関与者のみによってなされたもの」で、「不適切な会計処理は、売上高や営業利益には概ね影響していませんでした」
  • 「同社の事業規模を踏まえれば、その利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤せるものであったとまではいえず、同社の本業における経営成績を拠り所とした市場の評価を著しく歪めたものであったとは認められませんでした。このため、上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められませんでした」
  • 「以上のように、本件虚偽記載の影響の重大性について総合的に判断すると、上場廃止が相当であるとは認められない」

しかしながら、この告知の中で東証自体が指摘しているように、「判明した連結純資産の訂正は、最大で1,235億円にのぼる」というように、世間の常識で考えると粉飾額としては途方もない金額です。その結果、オリンパスの自己資本比率は4%台まで下がっています。というか、表現を変えれば実態は4%台だったものを隠して投資家を欺いてきたということです。その結果、新規事業への投資資金の調達等「本業における成績トレンド」を上向かせることが非常にむつかしくなっています。さらに1番目と2番目の論点は、営業利益までの「本業」が好調であれば、特別損益の所では何をやっても許されるという論理につながりかねません。そうではありません。そもそも会社の本業の業績を示すものはボトムラインです。

このような論理で監理されている株式市場を世界の投資家に対して信用して欲しいということ自体、想像を絶する楽観主義ですが、東証の措置を支持する人がいることにさらに愕然とします。17日の日経新聞朝刊に「金商法に詳しい早稲田大の黒沼悦郎教授」の「投資家保護良い前例に」、「・・・今回はいち早く上場維持を判断し、捜査機関が上場判断と別の次元で刑事責任の追求に踏み込めたことも、投資家保護の観点から良い前例になった」というコメントを書いています。しかし、同じ「専門家のコメント」として、元東京地検特捜部長の若狭勝弁護士の「・・・市場にどの程度悪影響を与えるかも刑事責任追求の上では欠かせない。そこが固まらない段階での東証の上場維持の判断は時期早尚といえる」というコメントは若干の救いです。

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ