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社会問題としてのコーポレートガバナンス 安田 正敏

2011年01月28日
コーポレートガバナンスの問題はつまるところ日本の社会問題ではないかという気がしてきます。したがって、日本のコーポレートガバナンスの問題を解決するためには問題の真の原因を究明し、会社法だけでなく、企業活動全般に係るその他の法律、例えば労働関係の法律など包括的な法律、制度の見直しに加えて、社会的な慣行の思い切った変革が必要になってくるのではないでしょうか。
いままで4回にわたって法制審議会会社法制部会のコーポレートガバナンスに関する議論を見てきましたが、この問題について筆者の脳の襞に鍋底の煤のようにこびりついて取れない疑問があります。それは、どのような制度改革でもそれだけで問題を100%解決できるような問題はまずないという事実を考慮すると、ここで見てきたような議論は何かもっと重要なものを欠いているのではないかという疑問です。それは必ずしも法律に係る問題ではないからここで議論されていないという言い方もできるでしょう。しかし問題を解決するための法律や制度の改革は、現実に社会で起きている矛盾や問題をより解決しやすくするために行われるべきであり、その矛盾や問題の真の原因を究明することを素通りして会社機関の設計はこうあるべきであるということを議論しても何か片手落ちのような気がするのです。つまり、その矛盾や問題の真の原因を究明していくと、日本企業が抱えるコーポレートガバナンスの問題を解決するためには、会社法の改革だけなく、日本企業の活動全般に係るその他の法律や制度などの改革を含めた包括的な方法が必要になるのではないかと思います。

数はそんなには多くありませんが有力な企業が採用している委員会設置会社という機関設計を具体例としてあげてみます。コーポレートガバナンスの重要な機能のひとつは企業価値を上げていくことであるということ大方の人の認めるところですが、この観点から見たとき、委員会設置会社という機関設計をしている会社でも、その機関設計が本来期待されていたような結果を出していない会社が少なくないという現実があります。それはどうしてなのかという分析が、この会社法制部会では十分に行われていません(そうすべきであるという意見は出ています)。

実践コーポレートガバナンス研究会の月例勉強会でもこの問題は繰り返し議論されています。委員会設置会社という機関設計を取り入れても、会社の人事評価制度や昇進制度などの目に見える人事制度や目に見えない昔からの人事慣行が存続していれば、どのようなコーポレートガバナンスの制度を取り入れてもそれは形式的なものに終わってしまい、結局は従来の会社運営のやり方が勝ってしまうという結果になるということです。

これは、ひとつの会社の問題だけでなく、会社が存在する日本の企業社会の問題を含んでいます。例えば、日本の企業社会では経営トップの会社間の移動は極めてまれな現象です。その原因は、日本企業あるいは企業グループが閉鎖的な村社会の性格を色濃く持ち、他社から幹部を招きいれるということはすんなりとは受け入れがたいことだからです。そのため、積極的に事業リスクをとらない、上司に対する反対意見をいうためには、少し誇張していうと、家族を路頭に迷わす覚悟なしではできないなどの企業文化が醸成されがちです。このような企業文化のもう一つの問題点は、「部下は会社を辞めない」という暗黙の前提のもとに管理者が行動することになり、管理者のモラルハザードを助長してしまうことです。

このような企業文化の下に育った取締役で構成する取締役会では、暗黙の了解のうちに入社以来継続する序列ができており、その中で代表取締役に対して他の取締役が監視するということは会社法には書いてあっても現実にはなかなか起きにくいことです。

このように見てくるとコーポレートガバナンスの問題はつまるところ日本の社会問題ではないかという気がしてきます。したがって、日本のコーポレートガバナンスの問題を解決するためには問題の真の原因を究明し、会社法だけでなく、企業活動全般に係るその他の法律、例えば労働関係の法律など包括的な法律、制度の見直しに加えて、社会的な慣行の思い切った変革が必要になってくるのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

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