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会社法制部会の論点(4):企業統治の在り方-取締役の監督機能に関する検討事項(続き) 安田 正敏

2011年01月20日
第5回会議の前半では、委員会設置会社、監査役会設置会社に加えて新しく監査・監督委員会設置会社(仮称)が提案され、それを中心に前の二つの現行制度と比較しながら議論されています。しかし、この制度を良く見ると現在の監査役に取締役会での議決権を認めることとコーポレートガバナンス上の機能は変わらないように見えます。
前回は社外取締役の是非を中心にした議論を見ましたが、今回は第5回会議の前半で議論されている「取締役の監督機能の充実に向けた機関設計」に関する議論を見ます。

ここでは、委員会設置会社、監査役会設置会社に加えて新しく監査・監督委員会設置会社(仮称)が提案され、それを中心に前の二つの現行制度と比較しながら議論されています。この制度が提案された理由は、「社外取締役を選任し、その機能を活用することは、取締役の監督機能の充実という観点から、一定の意義を有する」(内田関係官)という考えを前提にしたうえで、現行のそれぞれの制度の欠点を補う機関設計を議論すべきであるということです。その欠点とは次のように説明されています。

  • 監査役会設置会社:社外監査役に加えて社外取締役も選任する際の負担感等を考慮すると、社外取締役の機能の活用という点からは、必ずしも利用しやすい機関設計となっていない。

  • 委員会設置会社:指名委員会や報酬委員会の設置に対する抵抗感等から、社外取締役の機能を活用するための機関設計として広く利用されるに至っていない(上場会社の2%)。

これらの欠点を補うものとして社外取締役を中心とした監査・監督委員会という新しい機関をつくり、従来の監査役会の機能を担わせるという考えが監査・監督委員会設置会社です。ただし、これについては、監査・監督委員会の経営者からの独立性をどのように確保するか、監査・監督委員会の権限等をどのように定めるかという点についての議論が必要とされております。経営者からの独立性という観点からは、監査・監督委員会の社外取締役を誰が選ぶのかという点が重要な論点になります。また、監査・監督委員会の権限等については最終的には代表取締役を解職することを背景にした監督を認めるのか、現行の指名委員会や報酬委員会の機能の一部を代替させるのかという議論が重要になります。

第5回会議のこの議論については、岩原部会長も「正直申し上げて本日の議論をまとめるのは私の能力を超えている感じもします」といっているように様々な意見が出されています。しかし、日本のコーポレートガバナンスについて何が求められているのかということを考えると、結局、「社外監査役では果たし得ない機能としましては,例えば違法行為をやっているわけではないですが,会社のパフォーマンスを上げる努力が十分ではないと思われるような経営者が居座るという状況に対してけん制機能を働かせる,そういう役割を果たすものがあったほうがむしろ会社にとって望ましいという判断があれば,独立・社外取締役という制度を選択するよう推奨していくことに反対しているわけではございません。そういう意味では,今日御提案を頂いているこの新たなガバナンス形態は,恐らくそういう発想の中から生まれてきたものではないかと思われますので,その方向性については賛成です。」(野村幹事)という意見に行き着くのではないでしょうか。その方向性から言えば、神田委員の「会社は定款で監査役が取締役会に出席をし,かつ取締役と同等の議決権を行使することができると定めることができるという選択肢を認めてはどうかと思います。理屈のレベル,実際のレベルで細部の議論が必要だとは思いますが,そういう選択肢が認められれば,ここにいう監査・監督委員会のようなものは必要ならばもちろん任意に置かれるでしょうが,制度として用意する必要はなくなるということになるように思います。」という意見がより現実的な解決策のように思えます。

最後に、ここで議論されている制度については、議論の内容を見るとほとんどの委員が上場企業、それもかなり大きな企業を念頭において議論していることを指摘しておきたいと思います。社外取締役の義務付けにしても、監査・監督委員会設置会社にしてもすべての会社に適用すべきかどうかという点については慎重に議論されるべきです。また、監査・監督委員会設置会社が三つの会社機関からの選択制になるとすれば、果たして新しい会社機関を選択するインセンティブがどこにあるのかということが十分に検討されるべきでしょう。

(文責:安田正敏)

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