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会社法制部会の論点(3):企業統治の在り方-取締役の監督機能に関する検討事項 安田 正敏

2011年01月12日
社外取締役の必要性を議論する基礎として経営全般の監督機能と利益相反の監督機能と分類して議論していますが、このような議論は「会社の業務を知らない人が経営全般の監督機能とか利益相反の監督機能を果たせるはずがない」という議論に行きついてしまいます。社外取締役を必要とする本質的な理由を考えればこのような結論には行きつきません。
お正月休みをはさんで少し間が空きましたが引き続き会社法制部会の論点、今回は「取締役の監督機能に関する検討事項」についての議論を見ていきます。

まず内田関係官よりこの件に関する事務局としての概略の説明がなされていますがこの中で社外取締役に期待される機能として次の3つを挙げています(第4回会議)。

① 経営効率の向上のための助言を行う機能であり,ここでは助言機能と呼んでいます。
② 経営者の評価・選解任その他の取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより,経営全般を監督する機能であり,ここでは経営全般の監督機能と呼んでいます。
③ 会社と経営者との取引の承認など,会社と経営者等との間の利益相反を監督する機能であり,ここでは利益相反の監督機能と呼んでいます。

内田関係官は、①の助言機能は、それを利用するかどうかは経営者の判断であり社外役員義務付けに関する検討の基礎にはならないと説明しています。この考えと分類には多くの委員が賛成していますが、中には、②の機能と③の機能を分類するのは難しい、あえて分類しなくてもいいのではないかという意見もあります。

しかし、筆者はこのような分類で社外取締役の必要性を論じるのは若干本質からずれている気がします。この分類をもとに議論を進めていくと、「会社の業務を知らない人が経営全般の監督機能とか利益相反の監督機能を果たせるはずがない」という議論(注1)に行きついてしまい社外取締役の必要性に対する説得力が弱くなってしまいます。むしろ社外取締役の必要性の本質は上村委員の次の意見にあると思います。少し長くなりますが引用します。

「私は社外取締役が必要とされる,つまり独立性が高ければ高いほど必要なのはなぜかというと,これは社外取締役という会社の内部に精通していない人,もちろん平均以上の理解力のある人でないといけないと思いますが,そういう人に対して,経営者がまず状況をきちんと説明をする。そうした説明を社外取締役は理解しようと努める。そして,そのことについて評価をし,信任を与える。そのことによって,経営権の権威が高まる。それが社外取締役の基本的な機能で,それが結果的に経営の効率性にもつながるはずだし,もし訴訟になったような場合に,そういうプロセスをきちっと踏んでいれば,経営者は訴訟から守られる可能性が高い。つまり,会社と無関係な独立の人が会社の説明を理解し,信任しているということが,経営権の権威を高める,そういうところに社外取締役の意味があると私は思っております。」(注2)

ここで言及されている独立した役員については東京証券取引所が、昨年、1人以上の独立役員制度を上場企業にたいして義務づけたことは上の観点からみて一歩前進ではあると思いますが、その75%が社外監査役であることを考えると取締役会における上記の役割については限界があると思います。
それでは、社外取締役と社外監査役をどのような会社機関にどう配置すればいいのかという議論が次になされなければなりませんが、その議論の中で委員会設置会社、監査役設置会社に加えて新しい会社機関が提案されています。それが、第5回会議で議論されている「監査・監督委員会会社」です。この議論については次回見てみます。

注1:「機能を実効的に果たすには具体的な事業内容の理解の程度よりも,経営者から独立して監督を行える立場にあるかが重要であるとありますが,具体的な事業内容の理解の程度ということの必要性は否定されていないわけであり,事業内容の理解がなく,ただだれか本当に客観的な立場の人がいればいいということは,現実的にはあり得ないことだと思います。」(八丁地委員)

注2:独立性が高い社外取締役が必要だという点について1月11日の当研究会の勉強会で講師のアーサー・ミッチェル氏(ホワイト&ミッチェル弁護士事務所)が中国の面白い寓話を紹介してくれました。「中国ではウナギ漁をして獲物を魚籠にいれ持ち帰る時、ウナギの活力を高めるためにウナギの嫌いな魚をいれておく」ということです。

(文責:安田正敏)

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