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コーポレートガバナンス議論の迷走 田野 好彦

2010年11月26日
コーポレートガバナンス議論は、上場企業の株主の立場に立った議論とステークホルダー全般を視野に入れた議論に明確に区分し、前者については取引所のソフトローや金融商品取引法等に任せ、後者については産業文化の成熟を志向しつつ、会社法改正に結び付けていくということにしてはどうだろうか。
一年ぶりに筆を取らせていただく。

当研究会の勉強会などを通じてコーポレートガバナンスの議論を一年続けてきて、論者の立場によってコーポレートガバナンスの定義や有るべき論に大きな隔たりがあることが明確になってきた。

議論の流れを私なりに整理すると、大きく次の二つになるように思われる。

一つの立場は「株主」、とくに上場企業の株主の立場である。この立場の論者は、コーポレートガバナンスによって守られるのは株主にとっての企業価値、すなわち時価総額であって、経営者の専横をチェックして、経営者が株主の利益第一に忠実に仕事をしてくれるような仕組を導入し、機能させることこそがコーポレートガバナンスである、と主張する。この立場の論者にとってのコーポレートガバナンスは、企業価値を損なう(株価低下につながる)恐れの有る不祥事などを未然に防止することも期待されている。

もう一つの立場は「公衆」「社会」「従業員」など、企業によって恩恵をこうむるステークホルダーの立場である。もちろん「株主」もこのステークホルダーの重要な一員ではあるが、前者の立場のように特別の地位を与えられるわけではない。この立場の論者は、コーポレートガバナンスによって守られるのは企業の社会的価値であって、企業の社会的価値が損なわれることを未然に防止できる仕組を企業組織の中に組込むことこそがコーポレートガバナンスである、と主張する。

一年前の拙論は後者の立場に立ってコーポレートガバナンスを考えてみたい、ということであったが、全体の流れの中では少数派であるように思われる。しかし、会社法の議論では、上場企業以外の圧倒的多数の一般企業を対象にすることになるので、後者の立場が主流になるべきではないか。

実際には、株主利益を第一に考える前者の立場の議論を無視することもできず、議論が混乱を極めることになる。

ここはすっきりと前者の立場と後者の立場で議論を明確に区分し、前者については取引所のソフトローや金融商品取引法等に任せ、後者については産業文化の成熟を志向しつつ、会社法改正に結び付けていくということにしてはどうだろうか。

(文責:田野 好彦)

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