ブログ詳細

日本企業の業績低迷とコーポレートガバナンス 安田 正敏

2010年10月26日
現在の日本企業の業績低迷を打破するためには、高性能なエンジン(技術)と十分な燃料(資金)を積んだ車の運転手(経営者)に思いっきりアクセルを踏ませるためにコーポレートガバナンスの仕組みをどう変えていくかという議論が重要ではないかと思います。
現在、法務省の法制審議会の会社法制部会において会社法施行4年後の日本企業を巡る環境変化を踏まえて会社法制の見直し議論が行われています。平成22年4月28日の第1回会議から平成22年10月21日の第6回会議まで6回にわたって審議が行われています。この部会は当初2年間かけて会社法制について審議する予定になっていたようですが、あえて2年にこだわらず慎重に議論すべきだという方向に変わっているようです(注)。

第1回会議では会社法制をめぐる課題、特にコーポレートガバナンスに関する課題についての各委員のフリートーキングが行われています。それを読むと、コーポレートガバナンスは企業の効率性を上げ企業価値を高める役割とそれに伴う法令違反を含む様々なリスクを管理していく役割という二つの側面がることを前提としています。たとえば早稲田大学教授の上村委員はそれを次のように表現しています。「ルールは決してアクセルを踏ませないためにあるわけではなくて,高性能なブレーキがあれば思い切りアクセルは踏めるということですので,やはりそうしたバランスの取れた安定的な仕組みを構築する,そういうタイミングが今のこの時期だと思います。」

しかし、会社を代表する委員からはどちらかというとブレーキに対する懸念がより強いように感じます。例えば東京商工会議所を代表する三和電気工業(株)社長の石井代表は次のような懸念を表明しています。「経済活動と企業の健全な発展を促す企業統治というものは必要とは十分存じ上げておりますけれども,それが強化され過ぎますと,経営の素早い意思決定が阻害されるおそれがあるのではないかなということを心配しております。」

大企業を代表する(株)日立製作所副社長の八丁地委員は欠席のため文書による意見のなかで、「見直しが実務に与える影響について精査し,会社法制が日本企業の競争力強化や効率性向上を促進し,決してそれらの足かせとならないように,十分配慮すべきである。」

ところが筆者は、現在の日本企業の業績低迷は、高性能なエンジン(技術)と十分な燃料(資金)を積んだ車の運転手(経営者)がアクセルに足を置いていないかほとんど踏み込んでいない状況が原因ではないかと思います。経営者に思いっきりアクセルを踏ませるためにコーポレートガバナンスの仕組みをどう変えていくかという議論のほうが重要ではないかと思います。

この点については企業年金連合会運用執行理事の濱口委員の次の言葉が印象的です。「今回の諮問で,『会社を取り巻く幅広い利害関係者の一層の信頼を確保する観点』とございますが,あえて申し上げると,その会社を取り巻く利害関係者の一員である株主の利益が恐らく最も軽視されてきた,最も犠牲にされてきたと言っても過言ではないのではないかと思います。少なくとも国際的な比較の尺度でいいますと,最も軽視された株主は日本株への投資家であると言ってもいいのではないかと思います。」

日本の上場企業の経営者は、コーポレートガバナンスのあるべき姿を議論する場合、この発言にどう答えてえていくかという責任があると思います。一方で、投資家サイドにもこのような発言をするだけでなく、どういう行動を取ればこのような現状を打破できるかということを示す責任があるはずです。

(注:会議の内容は次のサイトで公開されています:

(文責:安田正敏)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ