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取締役会議事録について 安田 正敏

2010年10月14日
日本企業の取締役会議事録に議論の内容を記載されていないケースがあるようです。このようなケースの場合、コーポレートガバナンスの外形的制度についていくら議論し改善しようとしても、実質的にそれが機能することは難しく虚しい努力に終わります。外形的制度の議論もさることながら、このような状況をどのように変えていくかということがより重要なのではないでしょうか。
ある携帯電話会社の元取締役(仮にA氏とします)と取締役会議事録について話す機会がありました。A氏はその後大手電機メーカーの取締役も経験されております。A氏によると日本の大企業の場合、取締役会議事録の例を挙げれば、概ね次のような内容が記載されるだけという場合があるようです。

「第一号議案 ○○○○の投資計画の件
○○取締役は○○○○の投資計画につき別紙計画書をもとに詳細に説明した。質疑応答がなされ慎重審議の後、議長がその賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもってこれに賛成した。
よって議長は○○○○の投資計画につき承認可決された旨を宣言した。」

これでは審議の内容、つまりどの取締約がどのような発言をしたかということ理解することは不可能です。その点をたずねると、「具体的な意見のやり取りはほとんど行われない」ということです。「取締役会は決議する場所で意見を交わす場所ではない」という剛腕社長もいたということです。

筆者のこの疑問は、日本企業の取締役を経験された方からは、「何をいまさら書生論のような馬鹿げたことを言っているのだ」と一蹴されるかもしれません。しかし、会社法371条は第2項で「株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。」としています。第3項で「監査役設置会社又は委員会設置会社における前項の規定の適用については、同項中『株式会社の営業時間内は、いつでも』とあるのは、『裁判所の許可を得て』とする。」という条件をつけてはいるものの株主は取締役会議事録を閲覧する権利を与えられているわけです。株主が取締役会議事録を閲覧しても上記のような内容だけでは、取締役会の中でどのような議論がなされどういう理由で当該議案が承認可決されたのか全く分かりません。

この状況は株主だけの問題ではありません。仮に、ある取締役が反対意見を持っていたとしても、取締役会でそれを表明しないまま「満場一致」で可決された事項につき重大な問題が生じ株主代表訴訟が起こされた場合、その取締役は当然その議案に賛成したことになります。「過半数をもって」可決された場合でも、発言者と意見の内容が議事録に記載されていなければ後から「自分は反対意見を述べた」といってもその証明は難しくなります。したがってこのような状況のもとでは取締役は大きなリスクを負うことになります。

日本企業の取締役会議事録がどのようになっているかという点については全体像を見ることは難しいですが、もし上記のような状況が日本企業の取締役会の平均的な姿だとすれば、コーポレートガバナンスの外形的制度についていくら議論し改善しようとしても、実質的にそれが機能することは難しく虚しい努力に終わります。外形的制度の議論もさることながら、このような状況をどのように変えていくかということがより重要なのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

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