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ITガバナンスとITコスト削減 安田 正敏

2010年11月01日
現在の企業経営はIT無しではやっていけないということは今さら言うまでもないことですが、企業経営者が自社のIT業務を理解し適切に統制しているかどうかという点については必ずしも当たり前のことではないのが実情のようです。
火曜日(9月28日)に、実践コーポレートガバナンス研究会の第9回勉強会が「クラウドとコーポレートガバナンス」というテーマで、監査法人トーマツの吉丸成人氏を講師にお招きして開催されました。その中で、クラウドに対する企業の期待は、「ハードウェア、ソフトウェアの購入、導入、保守が不要」、「安価にサービス(アプリケーション)を利用できる」というITコストの削減に関するものが圧倒的に多いというJUAS(社団法人日本情報システム・ユーザー協会)の第16回企業IT動向調査2010の調査結果の1部が紹介されました。また、週刊金融財政事情9月20日号の特集「深化するコスト・カット」という特集の中で、アクセンチュア金融サービス本部の中野将志氏が「ITコスト削減のルール:リバウンドしない15~25%のダイエットのために」という見出しでITコスト削減について書いておられます。そこで、ITコスト削減においてITガバナンスの役割がいかに重要かという点について触れてみたいと思います。

現在の企業経営はIT無しではやっていけないということは今さら言うまでもないことですが、企業経営者が自社のIT業務を理解し適切に統制しているかどうかという点については必ずしも当たり前のことではないのが実情のようです。

その最大の原因は、個別のITプロジェクトが個別の事業部門や特定の役員(社内ユーザー)の要望に引きずられることが多く、対応するIT部門でもそのプロジェクトあるいはそのプロジェクトを持つ社内ユーザーへの縦割り組織で対応する仕組になっているケースが多いということです。また、社内ユーザーはシステムの仕様に対して貪欲で、つまりあれも欲しいこれも欲しいという傾向が強く、システム開発を任されたSIベンダーは仕様が肥大すればするほど受注金額は多くなるという社内ユーザーとSIベンダーが利益を共有する構造になっています。経営者側では、IT投資に関する費用対効果を測定する明確な測度を持たず、プロジェクト完成後の効果測定による起案時の効果予測の妥当性も検証されないことが多い状況です。

どの企業もITコストの削減には精一杯の努力をしてきていることに疑問の余地はありませんが、経営側からの努力は、非常に単純な、例えば「ITコストの一律30%削減」などの方針が示されるだけというケースが多く、それに対しIT部門は各案件に対するSIベンダーへの単価削減交渉やIT部門の人員削減などで対応するという状況です。このような状況では、部分最適は達成できても全体最適は達成できません。例えば、複数の事業部門が同様の業務に異なるITプラットフォームを使っておりそれぞれに開発・保守費用をかけているというケースも珍しくありません。

これらの状況は、筆者が数年前J-SOX内部統制の準備をしているいくつかの大企業の例で目にしたことでもあり、中野氏が現在の金融機関の実情として上記論文の中でも触れていることでもあります。

この状況を改善するには、経営者がIT業務を全体的に理解し、IT業務を企業目標に合致するように見直し、それに従って経営資源を適切に配分していくことを可能にするITガバナンスを機能させるが決定的に重要です。それがないと効果的なIT費用削減もできないし、企業の競争力も向上することはできません。これが、9月21日のブログで紹介した「ITガバナンスとは、取締役会ならびに役員の責務である」(米国IT協会)という言葉の意味するところです。

(文責:安田正敏)

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