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株主主権をめぐる二つの議論 安田 正敏

2013年07月16日
株主が資本の効率的な活用を経営者に迫り高いリターンを要求することは株主の責任であり、結果としてこれがその他のステークホルダーに利益をもたらすことにつながります。そして経営者に対するこの権利を法律上認められている唯一のステークホルダーが株主であるということです。ここに株主の責任があり、特に年金などから運用を委託されている機関投資家の責任もここにあります。
最近、株主主権について二つの対照的な議論を読みました。一つは7月2日の日経新聞朝刊のコラム「一目均衡」に特別編集委員の末村篤氏が書いた「株主主権論からの卒業」という記事です。もうひとつは、東京海上キャピタル株式会社の深沢社長に紹介頂いた”The Right Target for the Third Arrow”という論文です。この論文は、ソニーの7%株主になっているサード・ポイントのローブ代表他が発表したものです。

最初の記事の要点は、株主主権を盾に「企業に無理難題を要求する」株主に対する批判ですがおそらくこの議論の背景にはスティール・パートナーズなどのアクティビストと呼ばれる投資家があると思われます。「現代の企業統治は、社会的影響力を増した株式会社に広範な利害関係者間の利益配分にもとづく健全な企業価値の向上を促し、受託責任を負う経営者の権力の正当性を担保する仕組みと理解すべきだ」と結論付けています。この文章自体が論理的に意味不明のところが有りますが一応広範な利害関係者(ステークホルダー)に配慮すべきだという考え方だと理解しておきます。一方で、後者の論文は、アベノミクスの第三の矢の中核となるべきものは日本企業の非効率な経営を根本から変えることであると主張しています。その中で、経営者の責任は株主にリターンをもたらすことであると主張し、様々なステークホルダーに配慮すべきだという考え方をステークホルダー・モデルと呼びこのモデルの問題点は経営者が誰にも最終的な責任を負わなくなるという事だと論じています。つまり前者の主張と対照的な主張です。

筆者の考えはこのステークホルダー・モデルに近いですがこのステークホルダー・モデルと株主主権は矛盾するものではないと考えます。つまり会社法105条で規定される株主の権利は資本主義の原則でありこれは曲げることができないことをまず認識すべきです。その上でステークホルダー間の利害のバランスを図りながら企業価値の向上を目指すのが経営者の責任であることを自覚することです。こう考えると後者の「経営者の責任は株主にリターンをもたらすことである」という主張と対立する考え方ではないと思います。またリターンの向上は株主だけでなくその他のステークホルダーにも利益をもたらします。この点で後者の論文は、「株主が日本の経営者の非効率な経営により利益を享受していない場合、他のステークホルダーは利益を享受しているか?」と問いかけた上で、「比較的非効率な日本企業の経営者は企業利益を上げられないばかりか、賃金も上げられないし、GDPを低迷させ、国に税収も十分にもたらしていない」と主張しており、この主張は説得力があります。つまり株主が資本の効率的な活用を経営者に迫り高いリターンを要求することは株主の責任であり、結果としてこれがその他のステークホルダーに利益をもたらすことにつながります。そして経営者に対するこの権利を法律上認められている唯一のステークホルダーが株主であるということです。ここに株主の責任があり、特に年金などから運用を委託されている機関投資家の責任もここにあります。

このような正当な株主の要求を「企業に無理難題を要求する」と解釈し「経営者は株主の法外な要求から企業を守らねばならない」、「取締役に株主の代理人として振る舞えというのは株主の課題評価だろう。社外中心の取締役会に株主価値最大化目標を課して統治と業績向上を直結させるのはお門違い」と主張する前者の論文は、本当にお門違いの主張をしているとしか思えません。

(文責:安田正敏)


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