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まるで「痴話喧嘩」の川重社長解任劇 門多 丈

2013年06月20日
川重社長解任劇は株主不在の「痴話喧嘩」である。取締役会が機能していないという点での、ガバナンス体制の問題を明らかにした。川重経営陣はこの間の経緯と今後目指すべき企業戦略についての、明確な説明が求められる。
川重社長解任劇は、記者会見での「(取締役会を軽視した行動が)許せなかった」の発言で明らかなようにまるで「痴話喧嘩」であり、各取締役には株主の請託を受けているとの自覚がない。これまで取締役会で川重の成長戦略、生き残り戦略を真摯に議論し、M&A、事業統廃合などの議論を全くしていなかったことを白日の下に晒すことになった。6月26日に開催される川重の株主総会では、この間の経緯と今後目指すべき川重としての企業戦略についての明確な説明を迫られることとなる。

ここまで事態がこじれたのは、川重のガバナンス体制に問題があることは明らかである。先ず社外の独立取締役がいない。大局的な立場に立って状況を観察し裁定する社外の独立取締役がいれば、このような醜態になる前に防止し出来たのではないか。取締役会が事業各部門(社内カンパニー)の代表で構成されているようでは、全社的な観点から戦略を議論し生き残り策を論ずる場にはならない。経営と執行が有効に分離されず、自らの事業部門の立場で、お互い足を引っ張るか傍観する構造となっていたのである。

解任された社長たちが取締役会に諮らずにM&Aを強行しようとした、との批判も当たらない。M&Aの決定プロセスであるデュー・ディリジェンス(事業、資産などの精査)にも入っていない段階では、戦略的に致命的な問題がない限り取締役会は反対せず、執行陣にデュー・ディリジェンスを任せるべきである。十分調査したうえで取締役会がM&Aの是非を決定するのである。このようなプロセスを経ることで、株主に対する説明責任を果たすこととなる。

川重の現況を見る限り、このようなもめごとを起こす余裕はないはずである。自己資本比率はメーカーとしては低い20%程度で、直近の2012年決算報告のセグメント・レポートでは7つの事業部門の営業利益率はいずれも極端に悪い。

今回の「解任」手続きもトリッキーだ。すでに発送済みの株主総会通知の議案を修正する形で行う。当初提案議題のリストにあった長谷川前社長ら3人を外したのである。

このような重大な議案修正をこのタイミングで行うことは、会社法上の総会招集手続き上問題があると指摘する声もある。解任された前社長は現役の取締役として出席するはず(辞任しない限り)であり、当日出席の株主はこの間の経緯と川重の企業戦略について改めて質問する機会となる。

(文責:門多 丈)

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