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補欠監査役 後出 大

2011年02月02日
補欠監査役を選任している会社が多いようだ。何らかの事情で監査役に欠員が生じ法定必要人数に満たなくなった場合に、臨時に株主総会を開かねばならないとすれば多大な時間と費用を要することになり、予め「補欠監査役」を選任しておくことは賢明な策といえるだろう。しかし、この「補欠」制度については考えるべき点が多々あると思われる。
会社法第329条2項に「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて、補欠の役員を(株主総会の決議によって)選任することができる。」とあることに基づいて、補欠監査役を予め選任している会社が多いようだ。
 
確かに何らかの事情で監査役に欠員が生じ法定必要人数(通常3名以上、うち半数以上が社外監査役)に満たなくなった場合に、臨時に株主総会を開かねばならないとすれば多大な時間と費用を要することになり、予め「補欠監査役」を選任しておくことは賢明な策と言えるだろう。
 
しかし、この「補欠」制度については考えるべき点が多々あると思われる。
 
その一つは会社法の記述にもある「員数を欠くことになるときに備えて」という表現に感じる、ある種の違和感である。欠員が出た場合の救済措置を示すものであるが、もし員数合わせのためだけであるなら、そのような監査役は会社にとって本来的に不要な存在であるはずで、コーポレートガバナンスの精神からは本末転倒の弥縫策と言わねばならない。一昔前の「何もしない監査役」を連想させる妙な規定である。
 
もちろん「補欠」という位置づけであろうと、監査役業務に対して十分な見識と意識を持っている人材であることを疑う理由はない。しかしその場合でも、補欠監査役に対する報酬の面からも考えるべき点がある。正確な実態は分からないのであくまで仄聞の範囲ではあるが、補欠監査役に対して一切の報酬を支払わない場合と、何らかの名目で幾ばくかの金額を支払っているケースとは概ね半々とも言われる。
 
補欠監査役は就任するまでは「役員」ではないのだから、もちろん役員報酬の対象ではない。従って、対価を支払うにしてもどのような名目にすべきかの技術的問題があるようだ。しかし、一切の対価を受け取らずに補欠監査役を引き受けるとすれば、一般的には、当該会社と何らかの特殊な関係にあると見られても仕方がないのではなかろうか。経営者と個人的に非常に近しい関係にあるとか、何らかの取引関係で間接的利益を期待できる立場にあるとか。いつも色眼鏡で見ることはフェアではないが、無報酬の補欠監査役が実際に監査役に就任した場合に、どこまで経営陣に対して毅然と立ち向かえるのかは割り引いて考えざるを得ないだろう。
 
一方、補欠監査役が何らかの報酬を受け取るとすれば、顧問料とかコンサルタント契約の対価とかになる可能性がある。何らかの形で会社業務に接点を持っていることが、将来の監査役就任に必ずしもマイナスになるとは思わないが、会社からの業務受託の関係を持てば、証券取引所の求める「独立役員」としての資格要件に支障をきたす。またもし、役務の実態性を疑われれば、税務面のみならず、コーポレートガバナンス上も問題を生じかねない。
 
野球やサッカーの場合ならば、補欠選手といえども練習の時からチームと一体になり何時でも試合に臨めるように準備しなければならない。しかし、補欠監査役は取締役会や監査役会に出席するわけではないし、実際に監査役に就任して初めて会社業務に接することになるのが普通だろう。所詮、員数合わせのための存在なのだからそれで良いとするのであろうか。補欠監査役がその必要性を認められて株主総会にも諮って決定されるほどの機関であるならば、一歩踏み込んで、例えば取締役会・監査役会の議事録の閲覧の権利を与えるとともに、何時でも監査役機能を継続できる環境を保持してもらう見返りに、然るべき報酬を堂々と支払う制度を考えてもよいのではないだろうか。 

(文責:後出 大)

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