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IFRSの公正価値概念とコーポレートガバナンス 安田 正敏

2009年12月07日
IFRSの時価評価主義の中心的概念が公正価値(Fair Value)ですが、この公正価値を求めるプロセスにおいては、企業経営者、あるいは財務報告作成者の裁量判断が入り込む余地が、従来の財務報告作成プロセスと比較して、格段に大きくなります。この問題を、コーポレートガバナンスの観点から見ると、そのような裁量的判断の基準が、第三者から見て、公正で合理的なものであることが担保されているかどうかということが重要になります。
最近IFRS(International Financial Reporting Standard)に関する議論が盛んになされるようになってきました。書店でも相当数の解説書が並んでいます。先週は、週刊金融財政事情(12月7日号)にも金融機関との関連で特集が組まれていました。たまたま、先週、当研究会が主催した第1回勉強会では、参加者の一人からIFRSがコーポレートガバナンスに与える影響について質問が出たこともあり、IFRSとコーポレートガバナンスの関係について要点の一つを述べてみたいと思います。

IFRSの解説は他の解説書に譲るとして、IRSFの根幹を成す考え方は資産・負債の時価評価主義です。その概念が「公正価値(Fair Value)」と呼ばれるものです。IFRSの公正価値開示については3つのレベルが定義されています(週刊財政事情12月7日号25ページ)。

  • レベル1: 同一の資産または負債について活発な市場における無修正の公表価格(例えば東証株価の終値など-筆者注)を用いた公正価値
  • レベル2: 観察可能なインプットをおもに用いた公正価値
  • レベル3: 観察不可能なインプットを主に用いた公正価値

筆者は、価値とは極めて主観的なものであり、万人に共通の公正価値は存在しないと信じる者です。例えば、最も納得できそうなレベル1においても、いつの時点の公表価格を採用するかで全く異なってきます。一般的には、決算期末日の市場の終値ということでしょうが、これとて便宜上の目安です。ある期間の平均値という考え方もあり、そうなるとどの期間が適切かという議論になります。

レベル2、レベル3につれてあいまいさはさらに増大します。どのようなインプットをどのように使うかということは、まさに多種多様です。

そのインプットの一つには将来のキャッシュフローも含まれています、というかこれが最も重要なインプットになります。固定利付債券のように満期まで持てば将来のキャッシュフローが確定しているものはまだいいとして、全く予想のつかないキャッシュフローを推定しなければならないこともあります。

そして、その将来のキャッシュフローを評価するための中心的な手法がDCF(Discounted Cash Flow)という手法です。技術的なことは省略しますが、このDCFという手法も、評価者の裁量的判断なくしては出来ない手法です。

要するに、IFRSの時価評価主義に基づく財務報告作成の過程では、経営者(あるいは財務報告作成者)の裁量的判断が入り込む余地が従来の方式に比較し格段に大きくなるということです。このため、判断基準を会計監査人に求める場面が多くなります。中でも、IFRSの枠組みづくりに係ってきたアーンスト&ヤングなどグローバルなBIG4(注)の考え方の影響はより強くなると思われます。

この問題を、コーポレートガバナンスの観点から見ると、そのような裁量的判断の基準が、第三者から見て、公正で合理的なものであることが担保されているかどうかということが重要になります。この場合、正論としては、「監査役は、経営者あるいは財務報告作成者、さらに、会計監査人の裁量的判断の基準に関する考え方と情報を取得し明確に理解することが必要となる。そして問題があると判断した場合には、問題の程度に応じた行動をとることが必要となる。したがって、監査役もIFRSの公正価値評価の考え方と方法については、その要点を理解しておくことが必要である。」ということになるでしょう。しかし、現実問題として、監査役にそのような知識と役割を要求することが可能かどうかというと大きな疑問が残ります。

裁量的判断の基準が、第三者から見て公正で合理的なものであることが担保されるかどうかという問題については、監査役の役割に関する議論に加えて、金融商品取引法の財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX法)に基づく企業の内部統制、特に決算・財務報告作成プロセスの見直しなども視野にいれた対応が必要になるのではないでしょうか。

注:会計事務所BIG4:
KPMG
アーンスト&ヤング(Ernst & Young)
デロイトトゥシュトーマツ(DeloitteToucheTohmatsu)
プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)

(文責:安田正敏)

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