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日本航空問題はガバナンスの機能不全に 安田 正敏

2009年11月17日
決算短信では「継続企業の前提に重大な疑義を生じさせる状況が存在する」という注記を付けざるを得なくなりました。難しい言い回しをしていますが、要するに「日本航空という飛行機は墜落寸前です」ということでしょう。この問題の大きな原因のひとつがコーポレートガバナンスの機能不全ではないでしょうか。
「白鯨」の物語が教えてくれるコーポレートガバナンスに関するもうひとつの教訓は、コーポレートガバナンスの機能不全は事業継続体としての企業を存亡の危機に陥れるということです。エイハブ船長の狂気の航海の結果、モゥビ・ディックによって海の藻屑と消え去ってしまったピークォド号という事業体(企業)が、この教訓を教えてくれます。

この問題は、150年以上前に書かれた物語の中だけでなく、現実に我々の目の前で起こっております。米国のGM、クライスラーものこの危機に陥りました。日本では、日本航空がこの危機に直面しています。11月13日に発表された日本航空の2009年9月中間決算では、営業損益が957億円の赤字、最終赤字も1,312億円と過去最大の赤字幅となっています。この結果、決算短信では「継続企業の前提に重大な疑義を生じさせる状況が存在する」という注記を付けざるを得なくなりました。難しい言い回しをしていますが、要するに「日本航空という飛行機は墜落寸前です」ということでしょう。

日本航空の赤字の原因は、景気の悪化や新型インフルエンザによる旅客の急激な減少であるといわれていますが、それだけに帰することができるのでしょうか。この悪天候の中、全日空というもう一つの飛行機が飛んでいます。この飛行機も悪戦苦闘しておりますが、「墜落寸前」という事態には陥っていません。日本航空の問題は、コントロール不全に陥った飛行機が、悪天候の中に突っ込んだという状況ではないでしょうか。つまり、「コーポレートガバナンスの機能不全」ということが最も大きな原因であるように思えます。

さて、この日本航空という飛行機にはいろいろな人(ステイクホルダー)が乗っています。経営者(パイロット)、従業員、株主、債権者、取引先、政府、飛行場を抱える地方自治体、利用者、企業年金受給者等々です。これらのさまざまなステイクホルダーの利害関係をここで紐解くことは容易ではありませんが、コーポレートガバナンスが機能不全に陥った大きな要因は、それぞれのステイクホルダーが自らの利害だけを主張してきたからではないかと、筆者には思えてなりません。

さらに、この墜落しかかった飛行機に、納税者という新たな乗客が乗ろうとしています。公的資金の投入の問題です。この飛行機は燃料(資金)切れになっているから国が燃料を注入しようという試みです。しかしコントロール不全となった飛行機の燃料タンクを満タンにするだけでは、墜落の危機を回避することはできません。より重要なタスクは飛行機のコントロールを如何に回復するかということです。つまりコーポレートガバナンスの機能を如何に回復させるかということです。

「それでは、どうすればいいのだ」という問いに答えることは、この記事の範囲を超えておりますが、問題解決のための視点だけは明確にしておくべきでしょう。目的が「飛行機の墜落を回避する」ということであれば、銀行、労働組合、年金受給者などのステイクホルダーは大きな痛みを伴いますが、それぞれのステイクホルダーが自らの利害だけを主張することを止めて、飛行機のバランスの回復のために、自らの役割と責任を自覚し行動することではないでしょうか。(この段階では、株主はすでに大きな痛みを受けています。)

これが実現する時、ステイクホルダーの利害のバランスをとったコーポレートガバナンスの機能回復のきっかけとなるのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

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