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企業の数だけ「企業価値」もある 田野 好彦

2009年11月14日
コーポレートガバナンスについては、さまざまな定義がなされているが、ここでは、当・実践コーポレートガバナンス研究会のホームページに掲げられた定義から議論を始めてみたい。当・実践コーポレートガバナンス研究会のホームページを参照すると「コーポレートガバナンスは、企業経営に係わるステークホルダーの利害の最適なバランスを図りながら、企業価値の最大化を追求するための枠組みと活動です」と定義されている。
コーポレートガバナンスについては、さまざまな定義がなされているが、ここでは、当・実践コーポレートガバナンス研究会のホームページに掲げられた定義から議論を始めてみたい。

当・実践コーポレートガバナンス研究会のホームページを参照すると、
「コーポレートガバナンスは、企業経営に係わるステークホルダーの利害の最適なバランスを図りながら、企業価値の最大化を追求するための枠組みと活動です」
と定義されている。

さて、まず「企業経営に係わるステークホルダーの利害の最適なバランス」とは何であろうか。

一般に、「企業経営に係わるステークホルダー」とは、株主、経営者、従業員、顧客、仕入先、金融機関、行政、社会といわれている。しかし、最近のコーポレートガバナンスについての議論は、そのほとんどが株主の利益を経営者の恣意的な行動からいかにして守るか、という観点からなされている。また、少数では あるが、少数株主の権利を支配株主や支配株主の意を受けた経営者の恣意的な行動から守るか、という議論もある。これは、コーポレートガバナンスに注目が集 まったきっかけが、エンロン事件や株主と経営者の利害が対立したいくつかのMBO案件等にあり、株式市場における投資家の信頼性をどのように担保するか、 という問題意識からなされている場合がほとんどであることに起因しているものと考えられる。しかし、このような観点だけでいいのであろうか。

株主の信頼を得るためのコストがかさみ、経営にマイナスの影響がでるようでは、従業員、仕入先、金融機関の信頼を失ってしまう。経営者に対する監視体制を 強化しすぎたために経営者のチャレンジ精神をつみとってしまったら、企業の発展は望めない。そもそも、投資可能な金銭の額よりも優秀な従業員の確保の方が 重要な意味をもつような業種においては、上場を維持すべきかどうかを再検討したほうが良い場合もあるだろう。

このような意味で、私はコーポレートガバナンスの議論に、当研究会の定義にあるように、ステークホルダーを多様なものとして考えた上で「ステークホルダーの利害の最適なバランス」という観点を持ち込んでいくべきであろうと考えている。

つぎに、「企業価値の最大化」という「コーポレートガバナンスの目的」について考えてみたい。

「企業価値」というのは、一昔(ライブドア事件)前までは、当然のように「時価総額」(株価×発行済株式総数)のことであると言われていた。しかし、株価 は一時的な需給で大きく動くものであり、そんな移ろいやすいもののために経営しているのではない、というのが最近の企業経営者の共通した感覚になっている のではなかろうか。たとえば、企業の歴史であり、市場における存在感であり、雇用している従業員の数であり、ブランドであり、お金で図ることのできない企 業価値の構成要素はたくさんある。

「企業価値」をこのように多様なものと考えたときに、「企業価値の最大化」を「コーポレートガバナンスの目的」とするということは、どういうことであろうか。

私は、「企業価値」は、それぞれの企業がその経営理念や創業の精神の中で明確に定義すべきものであると考える。つまり、どんな企業にも一律に当てはまる企業価値の定義は存在しない、というのが正解であろう。

したがって、この「企業価値の最大化」を目的として実行されるコーポレートガバナンス=「ステークホルダーの利害の最適なバランス」も、企業価値の定義か ら逆にたどって定義されることになる。つまり、「当社の求める企業価値は◎◎である。したがって、その最大化を図るため、当社は各ステークホルダーに対し て次のような基本方針=プリンシプルで臨む。」という形で、各企業がコーポレートガバナンスについての基本方針=プリンシプルを明確に掲げることが、コー ポレートガバナンスのあるべき姿であると考えるのである。

(文責:田野好彦)


コメント
企業価値についての考えに同感です。 門多 丈 | 2009/11/16 19:50

企業価値が時価総額でないことは同感です。経営者としては企業のブランド価値、企業の継続性と信頼性の向上に努めるべきと思います。想定しうる将来のキャッシュフローをリスクファクターを考慮した割引率で計算した現在価値が企業価値になるとの原点は保つべきと思います。また資本・株式市場の関係者としては企業価値が時価総額に限りなく近くような構造にする努力も肝要と考えます。

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