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トヨタの社外取締役起用に思う 門多 丈

2013年08月16日
トヨタが初めて社外取締役(3人)を起用した。起用が功を奏するには、経営と執行の分離のコーポレートガバナンス体制をどう構築していくかにかかっている。
トヨタが今年の株主総会で社外取締役制を導入し、社外取締役3人を起用した。キャノンと並んで社外取締役を入れていない著名企業であったトヨタの決定は、日本のコーポレートガバナンス改革の注目すべき出来事として世界的にも注目されている。16人の取締役のうち社外が3人であることは数の上でもそれなりのインパクトがあり、3人の方々のバックグラウンド(GM元副社長のマーク・ホーガン氏、元日生会長の宇野郁夫氏、元国税庁長官の加藤治彦氏)から、①経営陣に対する外部者からの有用な意見、②経営の透明性による規律の確保、③一般株主の利益保護(一般株主の利益の代弁者)の点で社外取締役を起用する効果は大きいと高く評価する識者もいる。

その中でも注目すべきはやはり、マーク・ホーガン氏である。同氏を起用するトヨタ側の事情については、8月6日の日経1面の「日本の製造業ー新たな挑戦」記事で分析している。2009-2010年の米国でのリコール事件で対応が後手後手に回ったことについて、「傷つく前になぜ情報発信ができなかったか」、「(トヨタの経営は当時の)米国内の変化には実は疎かった(のでは)」という反省が背景にあるとする。ホーガン氏が米国のリコール事件の直後の2010年9月から北米トヨタのアドバイザリー・コミティーの議長も勤めており、この辺の識見も期待されていると思われる。

ホーガン氏などの社外取締役の起用が功を奏するには、トヨタが経営と執行の分離のコーポレートガバナンス体制をどう効果的に構築していくかにかかっていると思う。取締役を兼務しない専務、常務執行役員が45人いる大組織であり、取締役会として議論し決議すべき事項を明確にする、具体的には企業戦略・組織と会社の存亡にかかわるようなリスクに絞った議論を行うべき場として取締役会を明確に位置づけるべきであろう。(それでも法律的には取締役会で決議すべき事項はかなりある)。そのためには取締役会での議論や判断のための情報が、執行部門から適切にかつタイムリーに提供されることが必須となる。

リーマン危機の直前、トヨタの急速なグローバル・オペレーションの展開の中で「兵站が伸び切り、企業の体質が脆くなっている」と告白していた幹部がいたという。このような懸念が、当時のトヨタの取締役会で然るべく議論されたのであろうか。米国のリコール事件も改めて分析し、どの時点でどのような情報をもとに、どのように情勢と問題の本質を分析し適切な対応をするべきであったか、の総括をしっかり行い取締役会の運用に役立てることも重要と思う。そのためにもホーガン氏の知見が活用されることを期待したい。

(文責:門多 丈)

この記事に対するコメント一覧

Posted by 門多 - 2013年8月28日 12時20分
安永様;貴重なアドバイスを有難うございました。
ポテンヒットの気づきと経営に戦略部分とのギャップは確かに大きいですね。前東証社長の斎藤様は社外役員の望ましい資質(?)について「なんでも興味を持って、質問する人」とおっしゃっています。ブログにも書きましたが、経営と執行の分離の上で会社経営(執行)が、十分な量の情報を適切なタイミングで提供することが大事と思います、また経営が戦略上、執行上の悩みを本音で社外役員にも話す風土(?)も重要と考えます。
Posted by 安永隆則 - 2013年8月25日 09時35分
ご意見拝聴いたしました。私は最近4年間社外監査役という職務を勤めておりましたが、社外役員はポテンヒットで気づきがあっても、経営に戦略部分で向かっていくのは大変なことだというのが、4年間の実感です。

 トヨタの企業風土は十分承知していませんが、経営トップと役員との接触は日々密接に行われており、社外役員の知りえない情報は残念ながらかなりの量というのが各企業の現状だと思います。経営トップに社外役員を信頼し意見を尊重するという姿勢が大事なのだと思います。特にリスク管理の面でトヨタで社外役員と太いコミュニケーションのパイプが作られることを期待したいと思います(形だけの社外役員は意味がありません)。

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