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独立取締役の職務と能力向上 門多 丈

2013年09月25日
独立取締役が効果的に機能するためには、その育成、能力向上も課題である。コーポレート・ファイナンスやリスクマネジメント等経営を十分理解出来る人材が求められる。取締役教育を日本の企業に根付かせるには、経営トップにそのように迫る株主の姿勢が重要となる。
日本企業でも独立取締役の導入が本格化しているが、未だ「それが企業にとってどう役に立つのか」とか「日本にそのような人材がいるか」との声も強い。「鶏と卵」の議論でもあるが、独立役員が取締役会で効果的に機能するためには、その仕組みづくりも重要である。

まずは「経営と執行の分離」が不可欠である。企業のミッション、戦略、中長期経営計画、経営環境と企業の存続を脅かすリスクについて議論し判断する場と、取締役会を位置づけることが重要である。具体的な業務執行の責任はCEOに任せる仕組みである。これが効果的にワークするために不可欠なのは、取締役会が判断し意思決定するために必要な情報が、然るべきタイミングに執行陣から伝達されることである。取締役会も会計監査人、監査役、内部監査との連携や調査委員会の活用などにも努めるべきである。

独立取締役には、コーポレート・ファイナンスやリスクマネジメント等経営を十分理解出来る人材が求められる。その育成や能力向上には、そのための社会的環境の整備も重要である。筆者は香港証券取引所(HSE)上場企業の社外取締役に就いていたが、HSEは上場企業の取締役会が、取締役の責任や職務執行、能力向上に関しての研修方針について決議し開示することを義務付けている。取締役自身も毎年、自己の研鑽、研修についてHSEに報告する義務がある。その一年間にどのような講習、セミナーを受け、どのような書籍や資料を読んだかについて、その項目とそのために費やした時間の報告を行うことを求められる。

米国では有力大学が取締役の教育・育成講座を設けている。カリフォルニア州立大ロスアンジェルス校(UCLA)では、ロー・スクールが Non-executive Director Education Programを持っている。当研究会でも取締役教育の調査ために、安田正敏専務理事がシンガポールで、Singapore Management University(SMU)のExecutive Development Programmesを視察し打ち合わせて来た。このプログラムはSingapore Institute of Directors(SID)の協力のもとで開講されているが、研修の内容は取締役の権限と責任、企業戦略、企業金融、リスク管理、企業の社会的責任など幅広く、全体として取締役の見識と能力の向上を目指すものとなっている。
(詳しくは当研究会のブログ「シンガポールにおける取締役教育を見て-取締役教育に関する雑感:安田 正敏 」をご一読ください)

取締役教育を日本の企業に根付かせるにはまず経営トップがその重要性を実感し行動をとること、さらに経営トップにそのように迫る株主の姿勢が重要である。この関連で日本企業への独立取締役の導入のオピニオン・リーダーである(株)日本取引所グループCEOの斉藤惇様と面談した。斉藤様は「日本ではすぐに社外取締役の人材がいないという話しになるが、まずは米国の有力企業で、独立役員が貢献する形で、取締役会がどのように運用されているかをよく知る必要がある」とおっしゃる。米国の実例も挙げ、独立取締役としては、1)CEO経験者などが望ましい 2)多くの会社の兼任ではなく、3社くらいに就任するのがせいぜい(業種の違った企業が望ましい)と述べられた。「取締役会の審議のための事前資料は膨大、会議もほぼ一日かかる」とし、その責任や負荷も覚悟すべきと強調もされた。

斉藤様には我々実践コーポレートガバナンス研究会の12月19日(木)のお昼の勉強会で独立取締役に期待される役割のテーマで講演頂けることとなった。お楽しみに。

(文責:門多 丈)

この記事に対するコメント一覧

Posted by 門多 丈 - 2013年10月5日 11時49分
安永様;みずほの不祥事は合併後遺症(モラルハザード)とも思えます。連結ベースの内部統制が重要で、監査役・内部監査もこのようなリスクを焦点に当て連結ベースで反社対策、
リーガルチェックの体制をチェックすべきと思います。

THさん;大変参考になるコメントを有難うございます。おっしゃるように「自己資本」との表現は奇妙で、経営者が「会社は俺のものだ」と言っているようにも読めますね。
Posted by TH - 2013年10月1日 13時46分
取締役(独立、非独立を問わず)には、日々研鑽し、現代的経営課題に知見を有することが本当に重要ですね。

日本では、委員会設置会社が一部・二部上場企業合わせて47社程度と、一向に拡大しないどころかむしろ減少気味です。ご指摘の様に、日本的ムラ社会の微温的状況に甘え、「経営と執行の分離」がなされていません。同時に、「所有(株主)と経営の分離」も曖昧で、いまだに、自己資本が幅を利かせ、株主資本(正確にはShareholder's Equity:株主持ち分)の基本すら浸透していません(そもそも、自己資本は極めて日本的表現で、欧米人には理解不能のTermではないでしょうか)。

さらに、株主と投資家(殆ど投機家)の混在も、企業統治に対する意識の低さをもたらしています。また、ステークホルダー論の中で、株主の地位が著しく歪められているのではないでしょうか。

日本型資本主義を再考する上で、池田信夫著「空気の構造」は、改めて、日本社会の無責任体質を問うています。”自主、自律、自己責任”が共通規範とならない社会で、果たして、ガバナンスは浸透するのでしょうか?
Posted by 安永隆則 - 2013年9月30日 00時04分
いつもながら、本質を骨太に論じておられ今後のあるべき方向を示されていると感心いたしました。それにしても、みずほの不正融資の件メガバンクの一角をなす銀行であるだけに情けない限りです。担当役員が報告しないなかったことなど、取締役の資格に欠ける人材が経営者となっている日本の悲しい現状を露呈した事件だと思います。役員になる人をしっかり教育する必要を痛感いたしました。

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