ブログ詳細

試される企業経営トップの矜持 門多 丈

2013年10月11日
みずほ銀行、JR北海道の経営トップは事件発覚の際に記者会見に出なかった。今回の事件の背景には、両社の取締役会、内部統制が機能しなかったことがある。
みずほ銀行、JR北海道の不祥事・事故発覚の際の経営トップの対応が余りにも不適切だ。みずほ銀行の佐藤頭取は「金融庁への業務改善命令への報告を提出してから」と記者会見に出なかった。反社・リーガルチェックという銀行にとって致命的な問題であること、昨年12月から金融庁の検査が入っていたことを思うと全く信じられない判断だ。鉄道会社にとって「安全、安心な輸送」は企業のミッションである。JR北海道の野島社長が「(事故は)工務部の問題」と考え、記者会見に出なかったのも、理解に苦しむ。経営危機の際にこそ、企業経営トップの矜持が試されるのである。

反社会勢力との取引については、みずほFGやみずほ銀行の取締役会、コンプライアンス委員会に何度か報告がされているとある。たとえ書類報告であったとしても反社・リーガルチェックに関するものであれば、監査役がこれについて注意を喚起すべきであり、社外取締役も監督の責任を果たすべきであった。佐藤頭取が(反社会勢力との取引について)「知っていた」が「認識はしていなかった」と発言をしているが、このような認識不足については内部監査が経営トップに直言すべきであった。

JR北海道社の脱線事故についての監査役、内部監査の責任や、果たすべき任務が何であったかは将来の教訓として分析すべきであろう。先日当研究会の勉強会で講演をいただいたアステラス社の大谷剛常勤監査役から、下記のようなコメントを頂いた。少し長くなるが大変参考になるアドバイスであり、引用させていただく;

  • (以下引用)
    「事業会社では拠って立つ製品なりサービスの品質管理と品質保証が極めて重要です。ライン部門によるQCが第一ディフェンスラインとして機能しなければなりません。そのため詳細な「業務手順書」に基づく業務が恒常的にラインで実施されているか、ラインに近い専門部門によるQCが行われます。
    次に、ライン部門から独立した専門部門による品質保証(QA)が、当社の製品・サービスを受ける外部ステークホルダーの立場で行われます。これが第二ディフェンスラインといえると思います。さらに、前述のQC、QAが適切に機能しているかを内部監査部門が監査します。これが第三ディフェンスラインに相当します。監査役監査ではこれら三重構造のディフェンスラインが、内部統制システムとして取締役会で正式に決議され、構築・運用されているか確認することになります。
    JR北海道について類推するに、第一ディフェンスラインが非有効である可能性が高いと思います。この「非有効さ」を見抜けなかった、もしくは見抜く努力を怠った第二、第三ディフェンスラインも連鎖的に「非有効」であったと思います。
  • (引用ここまで)

線路幅を厳しいスペックで管理することなどは鉄道会社業務の基本中の基本であり、現場のこの業務についての監督、監査体制が不十分であったことが、内部統制上の致命的な問題を引き起こしたと言える。

今回の両社の不祥事の共通の要因はモラルハザードと企業風土に関わるものである。みずほには「合併後遺症」、JR北海道には「分割後遺症」があるのではないか。みずほについてはオリコ社自身の企業体質(かくも多数の反社取引をしている背景は何か)、JR北海道ではかつての社長の自殺、多発する脱線事故、噂される過激派労組との軋轢など、不祥事の背景にはもっと深い闇が有るのではないか。両社の企業経営は責任を持って今回の不祥事の解決に当たるとともに、事件を引き起こした企業体質、企業風土の変革に取り組むべきである。両社の取締役会がしかるべき監督・監査の役割を果たせなかったことに鑑み、取締役会体制の見直しにも努力すべきと考える。

(文責:門多 丈)

この記事に対するコメント一覧

Posted by 門多 丈 - 2013年10月30日 17時08分
コメント有難うございました。みずほ第3者委員会の報告書が出ました。(全文は
http://www.mizuhobank.co.jp/release/2013/pdf/news131028.pdf )
要約を読んでの感想ですが、「組織として反社会勢力との取引を遮断する問題意識が
欠けていた」と厳しく指弾していますが、文中では「自己の融資債権という認識がなかった」「検査忌避、組織的な隠蔽はなかった」など金融庁の処分会費のロジックが垣間見えます。今回の調査では社内コンプライアンス、内部監査、監査役が問題融資について経営陣に強くウォーニングしたか否かについては明らかにしていません。コンプライアンス部門の
事後(オリコ社関連の反社勢力との取引の詳細)が、平成24年(?)以降は
コンプライアンス委員会や取締役会に報告されていなかったとあります。経営としての問題意識が希薄化していたということになります。
Posted by 舩山 - 2013年10月16日 14時22分
確かに取締役会の出された議題に監査役が何のコメントもしないと、監査役の存在意義が問われますね。
Posted by 藤井統計実務研究所 藤井 博 - 2013年10月12日 08時52分
全く同感です。私も両首脳の記者会見をTVで見て、頭は下げていましたが、私にはどこか他人事のような印象を受けました。どなたの言葉か忘れましたが、「トップには私の後には誰もいないという気概が必要だ」というようなことを聞いた覚えがありますが、この人たちを見て気概もなにもないなと感じました。結局こういう姿勢が蔓延し取締役会にも伝播して行っているのではないでしょうか。私は全てはトップに問題があると思いますし、そういうトップを選んだ体制にも問題があると思います。ガバナンスにはトップを選ぶ前と後の両方に存在するように思います。失礼な文言をご容赦ください。
Posted by 安永隆則 - 2013年10月11日 20時11分
貴重なご指摘だと思います。本日朝日夕刊には、関西のホームセンターの雄「コーナン商事」の社長以下の背任行為が報道されていました。こうなると、会社法の理念に沿って取締役会などが運営されていると自信を持って保証できる企業を探すほうが大作業になっている感じです。「清き水には魚住まず」などと言い訳する大企業トップが多いとすれば、資本主義を標榜すること自体恥ずかしくなってきます。子や孫の世代に年金財政の破たんのツケだけ負わし2020年のオリンピックまでは幸せでいたい等というトップが多いことを考えると、荒療治不可避の時かもしれません。

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ