ブログ詳細

コーポレートガバナンスを考えるひとつの視点 安田 正敏

2013年02月18日
「現状の独立した社外取締役は取締役会で全く機能していない」から独立した社外取締役は不要というような議論の進め方は、個別のケースの結果から一般的結論を導きだそうとする論理です。ここからは将来の方向性は何もみえてきません。重要なことは、日本のコーポレートガバナンスの全体のレベルと質を上げるにはどうすればいいかということで、その一つの方法が「独立した社外取締役を義務付ける」ということだと思います。
1月の初旬、ある方からコーポレートガバナンスについてのお話をうかがっていたところ、そのお話の展開がどうも筆者とかみ合わぬ方向に行きぐるぐる回り始めました。その方は日本の有力企業の何社かの社外取締役をご経験し現場でのコーポレートガバナンスの実績を十分積まれた方でした。お話は日本のコーポレートガバナンスが機能していないという共通の認識で始まったのですが、その後は、「現状の独立した社外取締役は取締役会で全く機能していない。A社の社外取締役がこの10年どんな立派な人だったか調べて御覧なさい。しかし結果はあの体たらくです。B社にしてもしかり。女性の社外取締役で発言したのを聞いたことがない」というお話になって、結論は、「独立社外取締役を置く置かないという議論は全く無意味」ということになってしまいました。現状の事実認識については全く異論をはさむ余地がないのですが、その結論は筆者の考える方向とは180度違うことになりました。

実は、このような議論を聞いたことは今回が初めてではなく、何回も耳にした議論です。しかし、今回、このような議論を聞いた後、同じ現状認識に立ちながら、このように話がかみ合わなくなるのはなぜだろうかとずっと考えていました。その結果、その原因は次のような立場の違いにあるのではないかと思うに至りました。

今、少しモデル化した図を考えてお箸を進めます。仮定の話として、コーポレートガバナンスに関して何らかの基準を設けて点数をつけたとします。X軸上にその点数の低い順から高い順に左から右へ目盛を取ります。そして、それぞれの点数を持つ企業の数をY軸に取ります。その場合、その分布のグラフが、点数の低い左の方の企業数が少なく、点数が高くなるにつれてその企業数が増え、平均値あたりで企業数が最大になり、その後は点数が高くなるにつれ企業数が減っていくという、いわゆるベル・カーブと呼ばれる正規分布のグラフに似たものになることが想像されます。この仮説は、例えば東証の上場企業というような比較的大きな数(1月21日時点で2303社)を考えた時、それほど強い仮設とは思いません。このグラフを念頭において議論を進めます。

冒頭の「日本のコーポレートガバナンスが機能していない」という共通の認識は、このグラフの平均値が低い、つまり企業の数が一番多い場所が相当に左側にあるという認識です。また、A社やB社の位置はその中でもX軸のさらに左側にあるということで、この点についての認識も一致しています。さて、どこで食い違いが起きたのでしょうか。

冒頭の議論をされた方は、グラフの左端の方にあるA社やB社の立派な社外取締役を置いているのに機能していないという個別のケースを理由に、「独立した社外取締役は要らない」という一般的結論を導き出しているのです。

コーポレートガバナンスの議論で重要なことは、如何にしてこのグラフ全体を右の方にシフトさせ平均値を上げるにはどうすればいいのかということです。さらに、平均値がより右側に偏り、且つとがった形のグラフにすること、つまり出来るだけ多くの企業が平均値より右側に集まるようにするにはどうしたらいいかということです。簡潔にいうと、日本のコーポレートガバナンスの全体のレベルと質を上げるにはどうすればいいかということです。「独立した社外取締役を置く」ということは、日本のコーポレートガバナンスの全体のレベルと質を上げるためにいろいろと考えられる重要な施策の一つとして考えられるべきであるというのが筆者の考えです。これに反し、前者の議論からは将来の方向性は何もみえてきません。むしろ、機能していないのは何故なのか、機能させるようにするためにはさらにどのようなことが必要なのかということをもっともっと考えて議論していくことが必要だと思います。


(文責:安田正敏)


コメント

斬新な問題提起です... 門多 | 2013/02/21 11:52

グラフ全体を右の方にシフトさせ平均値を上げるとは、斬新な問題提起ですね。 
次のような努力が必要と思います。 

「経営と執行の分離」の考えを日本に定着させる、執行から経営に(意思決定できる)情報がしかるべく上がってくる仕組みの構築と緊張関係の醸成することで社外取締役が活躍する場ができると思います。 

また社外取締役も、会社の戦略に関してCEOが適してなく、マネジメント能力があるかを常に考え、ふさわしくないなら(ポイント・オブ・ノーリターンになる前に)そのCEOを排除する覚悟を持つことも重要と思います。三菱電機の不祥事を見ても社外の牽制が重要と思います。(企業が社会の公器であることの自覚がまったくなかった)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ