ブログ詳細

三菱電機過大請求事件と内部統制 門多 丈

2013年02月13日
三菱電機がJAXAとの契約で、長年にわたり巨額の過大請求を行っていた。重大な企業不祥事であるが、J-SOX法違反についても厳しく究明すべきである。
三菱電機社が独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との契約で、過大請求を行っていた。JAXAが不正を確認できただけでも44件約3600億円の契約で、返金の請求予定金額は約62億円となる。具体的には、同社の電子システム事業本部鎌倉製作所を中心に製造原価の水増し(設計・試験費、加工費など工数を過大計上)JAXAに請求していた。JAXAの報告書によると、この不正には宇宙事業担当部長プロジェクトマネージャー、経理担当課長が組織的に関与していた。工数の不適切な計上については電子システム事業本部長や鎌倉製作所長などの会社幹部も認識していたとある。

過大請求分により、三菱電機は粉飾決算を行っていたことともなり、これについての三菱電機経営陣の責任も重い。三菱グループ企業は社是としての三綱領のなかで「処事公明」を誓っているが、この点からのこのような重大な不正事件は嘆かわしい。三菱電機の発表した2012年10-12月連結決算では、防衛省などに対する過大請求に伴う返納金757億円を営業外費用に計上している。


コーポレートガバナンス上の問題としては、

  1. これだけの重要事件でありながら、三菱電機、JAXAとも第三者調査委員会を設置していない。

  2. 20年以上にわたる不正を内部監査で発見出来なかった。

  3. JAXAは工数操作が行われているとの情報を受けて、2004年に三菱電機の調査を行った。重要な取引先であるJAXAの立ち入り調査であり、三菱電機社内で内部監査や監査役にそれを伝え、取締役会に報告すべきであった。(今回の事件を見る限り、それがなされていたとは到底思えない。この調査の際に鎌倉製作所は、工数を不正計上するための追加入力の端末の存在を隠蔽までしている)

がある。

内部統制の面ではさらに看過できない重要な問題がある。特にJ-SOX法(財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した報告書[内部統制報告書]の提出義務)の関連である。三菱電機の鎌倉製作所では作業者自身が虚偽の数値を入力していたこと、課長等が事後的に修正できたこと、との調査報告である。このようなインプットで経理上の不正が行われないように、経理システムを検証することがJ-SOXで求められている。この点の十分な確認なしに、監査法人によるJ-SOX内部統制体制についての監査証明や代表取締役による内部体制整備についての確認書の提出がなされたのである。この点ではJ-SOX上の重大な疑義があり、これを管轄する金融庁はしかるべく本件の検査を行うべきであると思う。

(文責:門多 丈)


コメント

大野 博 | 2013/02/24 21:55

この種の問題は,もぐら叩きのように思えます。その要因の一つには,良きにつけ悪しきにつけ,競争を勝ち抜き会社の業務を執行する経営陣の圧倒的な存在感があるのでは。それは監査役や社外取締役のそれとは比較にならないものです。従って,コーポレートのガバナンスと同時にコーポレートへのガバナンス,つまり社会的な牽制システムが必要であると思います。いずれの場合も機能不全の例もさることながら成功事例の分析も必要かと思います。

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ