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現状維持はあり得ない ~コーポレートガバナンス・コード有識者会議の議論について~ 安田 正敏

2014年11月21日
第5回の議事録が公開されましたが、今回の議論の中にも現状を変えたくないためにする、本質的でないいわゆる「ためにする」議論が散見されます。この会議に集まった有識者の方々の叡智と時間を無題にしないためにもこの会議がこのような「ためにする」議論に迎合しないように祈るのみです。

5回有識者会議の議事録を読みました。今回もOECDのコーポレートガバナンス原則に沿って、「『取締役会の責務』のうち取締役会の構成・機関設計・手続等」に関して議論が行われたようです。今回の議事録を読んで感じたことは「実情しんしゃく」派と「現状維持はあり得ない」派の間の溝の大きさです。予め筆者の立場を明らかにしますと筆者は「現状維持はあり得ない」派です。具体的にどのように溝が深いかということを理解頂くために2つ例を挙げてみます。

コーポレートガバナンスとは何かということを非常に分かり易く言い表した言葉があります。株式会社日本取引所グループ取締役兼代表執行役グループCEOの斉藤惇氏に実践コーポレートガバナンス研究会で講演していただいた時の言葉です。「コーポレートガバナンスとは株主から預かったお金をこのように使っていますと説明することだ」というのです。日本企業のコーポレートガバナンスが海外の投資家から批判される主たる理由は、「株主から預かったお金がどのように使われているか良くわからない」ということだと思います。例えば、代表取締役あるいはCEO、また取締役の選任に独立取締役が過半数を占める指名(諮問)委員会あるいはその報酬の決定に報酬(諮問)委員会が必要である理由は、それによって株主から預かったお金を使って企業価値を高めることに責任を持つ人たちの人選や報酬をどういう方針でどういう手続きで決めているのかということを株主に開示して理解してもらうためです。そのために、独立取締役は少なくとも何名以上は必要だという議論が続くわけです。

今回の議事録冒頭に、油布企業開示課長から「『前回会合の議論においては、取締役会の重要な役割・機能には、株主に対する受託者責任等を踏まえて、企業の利益率・資本効率を向上させ、その持続的成長を促すよう』ということで、①企業戦略等の大きな方向性を示すこと、②経営陣により適切なリスク・テイクをサポートするような環境整備(説明責任の確保)を行うこと、③独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効的なモニタリングを行うことなどが含まれており、こうした役割・機能は、監査役会設置会社、指名委員会設置会社など、いずれの機関設計においても、等しく適切に発揮される必要があるとの指摘がありました」という発言が記載されています。筆者はこの考え方は上記の斎藤淳氏の言葉の延長線上にあり高く評価します。この観点からも、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社にも指名諮問委員会、報酬諮問委員会を置くことをベスト・プラクティスとしてコーポレートガバナンス・コードに記載することは当然のことであると思います。

ところがこれに対して、あるメンバーは「監査役設置会社、監査等設置会社に、指名、報酬の委員会、諮問委員会を設置すべきだとコードにうたうことは、この2つのコードが指名委員会等設置会社に対して劣っているということを発信していることになる気がします。もし本当にそうであると考えるのであれば、会社法に戻ってきっちり議論すべきだと考えます」と発言しています。しかし、「こうした役割・機能は、監査役会設置会社、指名委員会設置会社など、いずれの機関設計においても、等しく適切に発揮される必要がある」ということを考えるならば、別に会社法に戻らなくても監査役会設置会社、監査等委員会設置会社にも指名諮問委員会、報酬諮問委員会を置くことで株主に対する透明性を高めることを補完することは自然の流れであり、それをベスト・プラクティスとしてコーポレートガバナンス・コードに記載することに反対する理由はないと思います。

もう一つ例は、驚いた、というよりおったまげた議論です。出席されていないメンバーからの意見書の中に「取締役会の究極の役割を経営幹部の選解任や経営者評価であるとする見解は我が国では定まっていないことに留意すべきである」という意見があったことです。特に、この方の肩書を見たときは椅子からころげ落ちそうになりました。

この方は「我が国」といっていますが、どこの国の方でしょうか。この方のために「我が国」日本の会社法第3622項を引用します。

3622項 取締役会は、次に掲げる職務を行う。

 一 取締役会設置会社の業務執行の決定

 二 取締役の職務の執行の監督

 三 代表取締役の選定及び解職

ちなみに、この番号は優先順位をつけたものではないことに留意してください。

 

この2つの例だけでなく、今回の議論の中にも現状を変えたくないためにする本質的でない、いわゆる「ためにする」議論が散見されます。この会議に集まった有識者の方々の叡智と時間を無題にしないためにもこの会議がこのような「ためにする」議論に迎合しないように祈るのみです。

 

(文責:安田正敏)


この記事に対するコメント一覧

Posted by 門多 - 2014年11月23日 11時30分
同感です。 由布様のおっしゃるように取締役会の重要な役割・機能を
①企業戦略等の大きな方向性を示すこと、
②経営陣により適切なリスク・テイクをサポートするような環境整備 (説明責任の確保)を行うこと、
③独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効的な モニタリングを行うこと、
することが、今回のガバナンス・コードの議論の根幹と思います。 取締役会が監督のみを行う機関でもないことは明らかです。従って 「いずれの機関設計においても、等しく適切に」も当然の考えと 思います。

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