ブログ詳細

栗原脩弁護士著「コーポレートガバナンス入門」を読んで 門多 丈

2013年01月22日
栗原脩弁護士の近著「コーポレートガバナンス入門」((社)金融財政事情研究会刊)は、コーポレートガバナンスの基本的な問題を考え、その在り方についての多様な議論を理解するには格好の本である。海外での論議は、独立役員が会社の成長戦略やコーポレートガバナンスの充実にどう機能すべきかに移っていると思う。
実践コーポレートガバナンス研究会の月例勉強会でも講演頂いた、西村あさひ法律事務所の栗原脩弁護士(元興銀証券(株)常務取締役)の近著「コーポレートガバナンス入門」((社)金融財政事情研究会刊)を読んだ。題名には「入門」とあるが、コーポレートガバナンスの基本的な問題を考え、その在り方についての多様な議論を理解するには格好の本である。社外取締役に期待される役割とその限界などについても、随所に著者の意見も述べてあり興味深い。

著者は「コーポレートガバナンスの問題は、他の国と比較して進んでいるとか遅れているとかを評価しうるものではない」との考えだが、本書での米、英、独、仏のコーポレートガバナンスの考え方や法制の歴史についての説明も大変参考になる。その中での発見は英国で、これまでなされている議論には注目すべきものが多い。

長年の議論を踏まえ制定された上場会社についての英国「コーポレートガバナンス・コード」では、ボードが「全体として会社の長期的な成長に責任を負う」機関であるとし、ボードの役割としては「リスクの評価と管理が可能となる慎重で効果的なコントロールの枠組みのもとで、企業家的なリーダーシップを提供する」こと、また具体的な業務として「会社の戦略的な目標を定め、必要な財務的、人的な経営資源を確保し、経営陣のパフォーマンスをレビューする」こと、としている。

2006年英国会社法では取締役の義務を成文化し、「株主全体の為に、会社の(長期的な)成功のために行為する」としたことに加え、会社の従業員の利益、取引先・顧客とのビジネス関係の促進、会社の事業が地域社会や環境に及ぼすインパクト、企業行動についての高いレピュテーション、などについて顧慮すべきことした。

エンロン事件も踏まえ2003年に出されたヒッグス報告書では、1) 取締役会では非業務執行取締役が半数以上を占めるべき、2) 取締役会議長と業務執行責任者(CEO)は分離されるべき、3) 取締役会と関連する委員会のパフォーマンス評価の実施とその開示に努めるべき、などを提言した。

本書の何か所で論じられていて興味深いのは、取締役会議長とCEO(業務最高執行責任者)の分離の課題である。取締役会議長は社外の非業務執行取締役が勤めるべきである、との考えが根底にある。リーマン危機後のバーゼル銀行監督委員会の「コーポレートガバナンスを強化するための諸原則」の中でも、この問題についての留意を促している。この課題は「経営と執行の分離」、「監督と執行の分離」の点からは重要と考える。我が国では未だ社外の独立役員を置くべきか、独立役員を入れてボードがうまく運営されるかの議論に留まっている。海外での論議を見ると、独立非業務執行役員役員が会社の成長戦略やコーポレートガバナンスの充実にどう機能すべきか、に既に論議が移っていると思う。

(文責:門多 丈)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ