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リースにすれば企業再生ができるのか 門多 丈

2013年01月07日
リースのスキームを使い製造業の工場・設備を公的資金で買い取る構想は、過剰設備投資を行ったゾンビ企業経営の救済策でしかない。経済成長のために民間の活力を生かし改革に取り組むべき課題とはまったく相反する。
日経12月31日1面トップ記事「公的資金で製造業支援」の記事を読んで唖然とした。政府が民間リース会社と共同で、1兆円以上の工場・設備の買い取りを行う構想があるという。半導体、液晶パネル事業との言及もあり、シャープの救済を念頭においているとも思える。

過去の過剰設備投資をリースの形で資産を外出しすると、「資産の減価償却負担が無くなり、新たな投資が出てくる」との発想には、見識も論理性もない。SPC(特別投資法人)に資産を所有させることで企業の帳簿上は簿外にしても、転売不能な設備でありいずれは買い戻さざるを得ないことは明らかである。企業にはリース債務があることで、市場は工場・設備が実体上はその企業の資産と負債とみなすのであり、企業財務の点からは何も本質的な変化はない。現在日本の企業の手元には200兆円に上る現預金があると言われる。現在の企業の問題は資金不足ではなく、経営が明確な戦略を描かず、然るべき事業や設備の投資を行っていないことにあるのではないか。

このリース・スキームは本来投資採算に乗らないものと思う。企業経営は特別損失を出してまで、設備・資産を売却するようには思えない。過去の投資責任に経営としてのけじめをつけないことでもある。SPCは簿価で設備・資産を購入することとなると、商業的な採算の取れるリース料は期待できない(記事にも政府からリース会社への「補助」という言葉も出ている)。

今回の構想は過去の過剰投資の失敗をとりあえず「別ポケットに入れる」ことでの支援であり、ゾンビ企業の救済のためにあるとしか考えられない。Sales and lease back スキームを使った「飛ばし」と言うべきである。経済成長のためには民間の活力を生かし改革に取り組む課題とは、まったく相反する過剰な公的な関与である。不良債権問題の銀行支援の際に議論されたように公的資金の投入には、国家戦略的な観点と大義名分が必要である。

記事では産業革新機構や企業再生支援機構などの出資については、政府系の経営参画として難色を示す企業が多いとある。リースによる資金援助なら公的でも良いと考える経営者の発想は問題である。資金さえ回れば自分の思うままに(他者に干渉されることなく)経営をしたいと言うのは経営者のエゴであり、このような発想はコーポレートガバナンス上も看過できない。

今回の報道の情報源は政府、自民党だと思うが、このような思いつきを無頓着に取り上げる報道の姿勢は厳しく批判されるべきである。「公的資金の導入は経営のモラルハザード(倫理の欠如)の批判を招く恐れもある」と言及するだけでは不十分である。この構想の本質的な問題は、経営や設備投資に失敗し市場との会話もできない企業経営者の延命という点にある。

(文責:門多 丈)

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