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東芝粉飾決算とコーポレートガバナンス 門多 丈

2016年03月23日
東芝の企業不正は経営主導の粉飾決算である。社外取締役も含めた取締役会がしっかり経営の業務執行を監督すること、三様監査(会計監査、監査員監査、内部監査)の連携の重要性を示している。

浜田康氏著「粉飾決算ー問われる監査と内部統制」(日本経済新聞社)では、東芝の粉飾決算を会計監査人が見逃したことについて「第三者委員会報告書」などを分析しながら具体的に問題点を分析されている。第3章「東芝の粉飾事件」ではリスク・アプローチの観点で工事進捗基準の精査、特に原価の分析、進捗状況のモニターしなかった点を、また赤字受注の問題などについて、東芝社内の「受政会議」(受注政策会議)での審議内容を会計監査人としてもチェックすべきであったとの指摘をされている。


東芝は過年度分の決算について2012年3月期の純利益を1524億円から614億円に、2013年3月期は1555億円から749億円に下方修正した。これほどの粉飾は経営の関与なしでは有りえない、財務情報開示の点でも著しい詐欺行為である。著者は「内部統制はトップから襟をただし部下に範を示すもの」と論述されるとともに経営判断(business judgement )の原則という法律上の考えで、会計上の不正について経営者の責任が罰されにくい構造について論述されている。本書の最終章「トップレベルの内部統制とは」の中で、良い経営者を選ぶべき、良い経営者は会計不正をしないとの考えで社外取締役が過半の社長候補選定委員会の設置も提案されている。その中では著者は当実践コーポレートガバナンス研究会の安田正敏専務理事の「年功序列の企業文化の中で社長が選ばれる。新社長は社長によって選ばれるという錯覚」とのコメントも引用されている。


東芝は指名委員会等設置会社で積極的に社外取締役を置きながらこのような企業不正を防げなかったとの批判がある。社外取締役の責任は「不正を発見する」ことではなく、「不正を発生させない」仕組を作ることにあると思う。東芝の企業不正の第一の問題は、監査委員会の委員長に粉飾操作の中心にいた元CFOが就いていたことにある。会計監査人である新日本有限責任監査法人がプロフェッショナルとして然るべき監査を行い、不正を発見したりその兆候を感じた時には監査委員(取締役)に通告するべきであった。監査計画についてリスク・アプローチの観点から工事進捗基準や赤字受注のビジネスの状況について重点的に会計監査すべきことについて、会計監査人と監査委員が方針を打ち合せるべきでもあった。同様に監査委員と内部監査部門の緊密にな提携も重要であり、いわゆる三様監査(会計監査、監査員監査、内部監査)での連携によるコーポレートガバナンスが機能していなかったと言える。


東芝の内情に詳しい人によると取締役会では投資やM&Aについての審議はしたが、不採算部門・事業の見直しなどの議論は持ち出されなかったという。連結ベースでの事業の収益性や事業の統廃合の課題、今回のような工事進捗基準の対象になる巨額な取引、赤字受注のようなイレギュラー取引についてもしっかり討議する場を取締役会で設けることが将来のための教訓となる。


東芝の経営主導の粉飾事件は、日本の大企業病の象徴と言うべきである。心ある中堅企業の経営などが環境の激変の中で「どう生き残り、競争力のあるビジネスモデルを構築するか、イノベーションをどう行っていくか,顧客との密接な関係を構築し、どのような満足を得るべきか」などで頭を悩ませ奮闘している」のに対し、大企業の中で惰性に流されぬるま湯(牛島辰夫慶応義塾大学教授のおっしゃる「企業社会主義」)に浸っていたと言うことではないか。社外取締役も含めた取締役会がしっかり経営執行を監督するというコーポレートガバナンスの重要性が明確になった事件である。


(門多 丈)



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