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現物株取引所の衰退を懸念す 安田 正敏

2012年12月26日
現物株取引による株式の長期保有は資本主義の核となるものです。株式の長期保有のウェイトが低くなり長期的な企業価値の向上という点に投資家の関心が薄くなっているとすればそれは由々しき問題ではないでしょうか。
今年も残すところあと少しとなった12月21日の日経新聞朝刊一面に「米ICEがNY証券取引所買収」という記事が掲載されました。正確にはインターコンチネンタル取引所(ICE)がニュートーク証券取引所を傘下にもつNYSEユーロネクストを82億ドルで買収するというものです。

日経をはじめその他のメディアの報道の論調は概ね共通していて、株取引においても現物取引よりデリバティブ・先物取引のウェイトが高まり、高収益のデリバティブに強い新興勢力に主導権を渡す脱現物の動きが強まっている結果であるというものです。日経新聞も「NYSEの売上高営業利益率は直近で焼く21%でICE(同60%)の3分の1に過ぎない。時価総額にも大きな差があり市場の評価ではICEに軍配があがる」と報道しています。

しかし、筆者はこの傾向に重大な懸念を感じずにはいられません。それは、デリバティブ・先物取引所と現物株取引所は資本市場においてその役割が決定的に違うからです。まず、デリバティブ・先物取引はその性格からしてのゼロ・サム・ゲーム取引であるということです。利益を上げる市場参加者がいる一方で同じだけの損失を出す市場参加者がいるという形です。市場全体で見れば価値を生み出す取引ではないということです。

もちろん現物株の短期売買や信用取引などは現物株取引のうちでもデリバティブ・先物取引と同じゼロ・サム・ゲームですが、現物株取引に基づく株式市場は本来、企業活動を通じて価値を生み出すための資金の調達手段として発達してきたもので、現物株取引による株式の長期保有は資本主義の核となるものです。そして長期保有する株主がコーポレート・ガバナンスという機能を通じて経営者が企業価値を高めるよう経営を監視することで企業価値が高まり国の経済が発展していくことになります。これはゼロ・サム・ゲームとは全く異なる構図です。

現物株取引所のもうひとつの重要な役割は、このコーポレート・ガバナンスをサポートする機能を持っているという点です。ニューヨーク証券取引所の場合は、取引所の上場規則が上場企業のコーポレート・ガバナンスの体制を定めていることを見ても決定的な役割を担っていることが分かります。もちろんICEに買収された後、ニューヨーク証券取引所のこの役割が軽視されるとは思いませんが、日本における報道が最初の点も含め、これらの重要性に全く触れていない点が気になります。

デリバティブ・先物取引は現在の資本市場でそれなりの重要な役割を担っておりその重要性を否定するわけではありませんが、株式の長期保有のウェイトが低くなり長期的な企業価値の向上という点に投資家の関心が薄くなっているとすればそれは由々しき問題ではないでしょうか。

(文責:安田正敏)


コメント
企業成長に貢献する市場であるべきと思います 門 | 2012/12/30 15:17

成長の為の資本供給につながらないブームは危険と思います。これも世界の先進国の金融緩和がもたらしたバブルとも思います。ガバナンスの点でも、現物株取り引きの証券取引所がしっかり機能することが大事と思います。

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