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「相談役」について 安田 正敏

2017年01月27日
相談役と呼ばれる慣行が会社の経営に弊害をもたらすという議論が高まっています。議決権行使書助言会社であるISSは今年の株主総会の議案に対する議決権行使の新しい推奨基準のひとつとして、相談役を置くことを定める定款変更の議案については反対を推奨するということです。この相談役あるいは顧問といわれるような慣行は、コーポレートガバナンスを巡る他の様々な問題に影響を及ぼしている日本企業の文化に根差すもっと根源的な原因から派生しているのではないかと思います。

先日、3月22日の月例勉強会に登壇頂く議決権行使書助言会社であるISSの石田猛行代表取締役を訪問した際、いわゆる「相談役」の慣行が話題となりました。ISSでは今年の株主総会の議案に対する議決権行使の新しい推奨基準のひとつとして、相談役を置くことを定める定款変更の議案については反対を推奨するということです。
石田氏によれば、「相談役というのは法的な地位でなく慣行だから、定款に規定していなくてもいろいろな名称で相談役と同様な役職を用意する会社がある。したがってこの推奨基準の狙いは『このような慣行は会社の経営に好ましくない影響を与える』というメッセージを示すことだ」ということです。
それではこの相談役の慣行にどのような弊害があるのかという点ですが、石田氏も委員である経済産業省主催のコーポレート・ガバナンス・システム研究会の第4回の会合の資料としてまとめられているのでご紹介します。

相談役制度の問題

  • 現役社長にとって、相談役の過去の意思決定を覆すことは困難
    (例:不採算事業からの撤退の遅れに繋がる)
  • マクロ・レベルでは、社外取締役の人材プールの充実を阻害、経営経験を社会に還元できない
  • 情報開示・アカウンタビリティーの懸念
  • 「取締役」相談役でなく、単なる相談役が問題
  • しかし、呼び方は様々。要は、元の社長がアカウンタビリティーなしに会社経営に影響を及ぼすことが問題

このうち、会社の経営に直接の弊害を与えるという点では、「現役社長にとって、相談役の過去の意思決定を覆すことは困難」と「元の社長がアカウンタビリティーなしに会社経営に影響を及ぼすことが問題」の2点でしょう。
これらの弊害が会社に悪影響を及ぼした典型的な例が東芝でしょう。複数の元社長が会社の経営を巡って争い現役の社長は自らの判断で会社の舵取りもできず、これらの元社長のうち誰の指示に従うかが最大の関心事であるという図式が如実に示されました。粉飾が明るみに出たことでこれらの元社長が会社を去った後も、原子力事業における巨額の減損の発覚という事態が発生し、東芝は解体の危機にさらされています。
一方で、東芝のライバル会社である日立製作所は、果敢な経営改革で経営を立て直しています。その経営改革を陣頭指揮した当時の河村隆社長も、學士會会報N0.290(2016年9月)に寄稿した「経営改革と企業統治」のなかで、これらの弊害に立ち向かいそれが如何に難しかったかを語っています。
「臨機応変に事業の入れ替えをできればよいのですが、先輩からは『俺が作った事業をやめるとは何事か』と風当りが強く、工場のある地元の自治体や部品供給者からは陳情が相次ぐので、事業撤退は非常に困難な作業です。」(同誌36ページ)
「反省しますと2000~2003年頃、わが社は様々な改革に着手しましたが、抵抗に遭う度、改革の手を緩めてしまいました。」(同誌40ページ)
日立製作所の経営改革は評価されているものの、このような「先輩達」の抵抗の中で川村氏も自分のやりたかったことに対するやり残しは大きかったと推測できます。
この相談役あるいは顧問といわれるような慣行は、コーポレートガバナンスを巡る他の様々な問題に影響を及ぼしている日本企業の文化に根差すもっと根源的な原因から派生しているのではないかと思います。それについては、また逐次議論していきたいと思います。
最後に、お正月の句会で投句した拙句を一つご紹介します。

ひび割れてなお床の間の鏡餅

(文責:安田正敏)


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