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日本一わかりやすい海外M&A入門:杉山仁著/きんざい 書籍レビュー

2017年07月03日
東芝、日本郵政などM&Aの巨額な損失(のれん代の償却)が起こっている。M&Aについての基本的な取り組み姿勢に問題があるのではないか。具体的には戦略とのマッチング、周到なDD(事前精査)に問題があったと考える。本著はM&Aを勧める具体的な説明を行う中で、M&Aには経営の主体的で系統的なコミットメントが必要なことを強調する。

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 連日、日本企業の海外M&A案件が紙面を賑わしている。そのなかには「社長がやりたいM&A」「横並び的に取り上げるM&A」と思える案件もあり、気がかりである。長年M&Aアドバイザリー業務や買収先企業の経営に携わってきた著者は、M&Aは事業戦略とマッチしたものであるべし、高値で売りつけられるな、と強く警告する。最近、巨額ののれん代の減損を出した日本郵政グループによるオーストラリアの物流子会社買収もその例になるのではないか。

 著者はM&Aにおける計画、精査、交渉、買収後の経営についての流れを13のステップに分け、それぞれのステップで社内の経営企画、事業部門、財務・経理、法務部門が効果的にかかわり、社外専門家もうまく巻き込んで推し進めるプロセスを詳述する。著者はこのようなM&Aのプロセスに企業経営トップが主体的にコミットすることの重要性も強調する。評者は日本企業が海外M&Aの巧者になるためには、これらのステップのなかでとくに「背景調査」と「買収価格の試算」に習熟すべきと考える。「背景調査」は海外の売手企業の非公開情報を買手側の企業が主体的に集め分析する調査である。「買収価格の試算」は投資の回収可能性を計算しあらかじめ買収額の範囲を決めること、とくにその上限を決めておくことが企業の規律の面から重要になる。

 長年M&Aの現場で修羅場を踏んできた著者は、海外M&Aでは売手企業についての調査・分析は性悪説で行うべきと指摘する。東芝の米ウェスチングハウス買収の例のようにM&Aは企業の屋台骨を揺るがすリスクを内包している。M&Aにシステマティックかつロジカルに取り組むことがますます重要になっていることを企業経営が自覚するのに格好の書籍だと思う。

(文責:門多 丈)
※ 本書評は「週刊金融財政事情」2017年5月29日号に掲載されたものです。

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