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取締役会にガバナンス委員会設置の動き 門多 丈

2012年11月20日
海外では「ガバナンス基準」を取締役会で議論し、確認し、決議する動きとなっている。これらの定期的なレビューも行われる。この関連で取締役会にガバナンス委員会を設置する動きがある。このような責務を果たすために必要な法的、専門的なコンサルタントの起用する予算が、取締役会に保障されるべきと定めることも注目すべきである。
先日ジャカルタでのアジア年金会議に出席した。アジアの主要政府年金と米国、カナダ、オーストラリアなどの公的年金のラウンドテーブルである。今回の会議での議論の一つにとしては米国や中国の経済が停滞し、欧州の危機も未解決な中で、世界で唯一経済成長が可能な東南アジアの経済圏をどう見るかがあった。この地域の各国も成長戦略としては、輸出工場型から内需の充実を図るものを目指すべきとのコメントもあった。エマージング経済への株式投資の手法についても議論となった。セクターが金融、資源・エネルギーなどに限られがちで、期待リターンが高くて株価のボラタリティが高い上場株投資の問題が指摘され、製造業・消費財・サービス企業に投資ができるプライベート・エクイティ(未公開企業株)への投資を活用すべとの議論も出た。

そのあと香港で中国プライベート・エクイティ(未公開企業)投資ファンドの取締役会に出席した。このファンドは香港証券取引所に上場されている会社型のもので、私は社外取締役に就任している。今回の取締役会でコーポレートガバナンスの面で注目すべき2つの決議をした。「ガバナンス基準」と「株主とのコミュニケーション・ポリシー」で、いずれも香港証券取引所のルールで求められたものである。

「ガバナンス基準」での取締役会の義務と決議された内容は、

  1. 当該企業のコーポレートガバナンス方針とコーポレートガバナンスの状況を監督・評価し、然るべき勧告をする
  2. 取締役と業務執行役員の研鑽と専門性の向上を継続的に評価する
  3. 法規制の遵守(コンプライアンス)の方針を監視・監督する
  4. 役職員の行動基準やコンプライアンス・マニュアルを評価、監督する
  5. 証券取引所のコーポレートガバナンス規則の遵守状況を評価、監督する

である。

「株主とのコミュニケーション・ポリシー」であるが対象は幅広く、個人、機関双方の株主のみならず投資業界、一般社会との然るべきコミュニケーションのあり方を規定している。伝達すべき情報は財務、業績、企業戦略、コーポレートガバナンス、企業リスクの特徴、などについてである。考慮すべき媒体としては、年次報告書、株主総会、証券取引所での開示、ウェブサイトなどでの開示、企業広報と広くカバーしている。

「ガバナンス基準」と「株主とのコミュニケーション・ポリシー」とも本来取締役会の本源的な責任であり、これらをわざわざ決議することの意味は正直言って当初は理解できなかった。議論の中でこのような形で責任を明示的に確認し、決議し、常にレビューすることの今日的な意義が次第に分かってきた。わが国でも内部統制基本方針やコンプライアンス・ポリシーについては取締役会で決議することとなっているが、それを一歩進めたものともいえる。「ガバナンス基準」の関連では、取締役会の3委員会(指名、報酬、監査・監督)に加えてガバナンス委員会を設置する動きがある。またこの基準を果たすために必要な法的、専門的なコンサルタントの起用する予算が、取締役会に保障されるべきことを定めていることも注目すべきと思う。

(文責:門多 丈)

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