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富士ゼロックスの会計不正の真の教訓は? 門多 丈

2017年06月19日
富士ゼロックス社の不適切会計についての「調査報告書」は、内容的には「事故調査書」でしかない。富士フィルム・グループ全体の内部統制の不備についての掘り下げが足りず、今後のために有効なコーポレートガバナンス改善の提言とはなっていない。
富士ゼロックス社の会計不正事件を聞いた時に、まず頭に浮かんだのは「同社は富士フィルム・グループの利益の半分以上を稼いでいるが、従来から独立性が高い。富士フィルム・グループの事業ポートフォリオは同社の存在で歪になっている。同社が米国ゼロックスとの合弁であること、オフィス機器会社としてIT化、ネット化の環境変化の中での遅れで経営には焦りやモラルハザードがあったのではないか」であった。

この事件についての富士フィルムホールディングス社の第三者委員会による調査報告書(要約版)を読んだ(「要約版」でも約70ページになる)。
>>調査報告書:こちらをクリックするとダウンロードできます

富士ゼロックス社の豪州やニュージーランドの販売子会社がリースビジネスについて不適切な会計基準を採用することで利益を過大計上したことの詳細な分析にかなりのスペースを使っていることなど、この報告書は「事故調査書」にしか見えない。企業経営、ガバナンス、内部統制、リスク管理の上で何が問題であったかの深め方が足りない。再発防止策の実効性にも疑問を持つ。かつてのオリンパス社不祥事の際は、練達の企業経験者を含めたコーポレートガバナンス改革委員会が問題を徹底的に分析し、あるべき企業経営、ガバナンス体制を提言した。今回の調査報告書が物足りないのは第三者委員会のメンバーは弁護士と公認会計士のみで、コーポレートガバナンスに知見のある企業経営者が入っていないことにもあると思う。

今回の不祥事は富士ゼロックス社だけではなく、グループのレベルでの富士フィルムのコーポレートガバナンス、内部統制の不備によると考えるべきである。具体的には内部統制について下記のような重大な欠陥があったと考える。グループとして内部監査、監査役監査が不充分であったとも言うべきである。

1)富士ゼロックス社の販売子会社はリース取引に関し不適切な会計基準を使用し財務情報を偽った。具体的にはリース期間全体のリース料を売り上げとし、翌期以降の利益を先取りした。リース料について金額が確定していないものも収益計上し利益の過大計上を行った。

2)「調査報告書」ではこのような会計不正操作(売り上げの前倒しと過大計上)のために「販売子会社ではキャッシュが不足し、親会社からの借り入れや買掛金が急増していた」とのことである。毎期の貸借対照表を親会社レベルでしっかりチェックすれば不正の兆候を発見出来たはずである。かつての沖電気工業社のポルトガル販売子会社の不祥事のように類似の事件はすでに発生していた。グループとしての警戒心が足りなかったのではないか。

3)今回の事件はいわゆる「不正のトライアングル」の典型例である。不正の「動機」「許す環境」「正当化」であるが、「動機」については「調査報告書」では「インセンティブとして目標達成によるボーナスが報酬のうち大きな割合を占めていた」とあり販売子会社の経営陣に売上、利益を過大計上のモティベーションが働いた。「許す環境」としては同報告書で「国内の売り上げが伸びない中で、富士フィルムはグループ・レベルで海外の販売子会社の売り上げに対する大きな期待があった」とあり売上至上主義が蔓延していた。海外の販売子会社の経営陣には「俺たちが富士ゼロックス社を支えているのだから」と「正当化」する理由もあった。

4)今回の不祥事は富士ゼロックス社の経営トップが問題の発覚を隠蔽していた点で、法令の順守上も深刻な問題だ。ニュージーランドの販売子会社の場合、当局は会社法や財務情報開示の点から注目し、重大不正捜査局も動いていたと言う。同社の会計監査人からは「(不適切会計に関し)処理すべき損失」についての警告のレターも既に出されていた。今回の問題発覚のきっかけは内部告発であるが、この内部通報を富士ゼロックス社は握りつぶしていた。

今回の不祥事を受けて富士フィルム・グループは富士ゼロックス社の取締役を大幅に入れ替えて経営、コーポレートガバナンス改善を図ると報道されている。上述したような富士フィルムのグループとしての企業経営コーポレートガバナンス、内部統制、組織、風土の問題の認識なしには、基本的な解決にはならないと危惧する。

(文責:門多 丈)

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