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東芝の決算は「正常化」したか ~不透明な「限定付適正意見」~ 安田 正敏

2017年08月15日
PwCあらた有限責任監査法人の東芝の2017年3月期決算に対する「限定付適正意見」は、会計監査において経営者との意見の齟齬を持ったまま妥協としての監査意見ではなかったでしょうか。外部から見て大いに疑問の残るところです。
8月10日、東芝は提出が遅れていた2017年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出しました。会計監査人であるPwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」)の意見は「限定付き適正」意見でした。有価証券報告書と同時に提出した内部統制報告書に対するPwCあらたの意見は「不適正」でした。
この「限定付適正」意見のついた決算に関して同日記者会見した東芝の綱川社長は、「決算は正常化し、経営課題のひとつが解決した」(日経の8月11日朝刊)と語っています。また、内部統制の不備については、「(米原発子会社の)ウェスティングハウスの会計で損失時期の認識に関して指摘され、それに関する会計処理に不備があったという1点。ウェスティングハウスは現在、連結から外れて、関連する不備が起こる可能性はなくなった」(朝日の8月11日朝刊)として内部統制報告書が不適正という意見も問題ないとしています。
ここで限定意見(限定付適正意見)とはどういうものかを見ておきましょう。
監査基準委員会報告書705A1によれば、財務諸表に重要な虚偽表示があると判断された場合、その除外事項付意見を表明する原因となる事項が財務諸表に及ぼす可能性のある影響の範囲が広範なものかどうかという監査人の判断において、「重要だが広範でない」時に限定意見(限定付適正意見)となるということです。その判断が「重要かつ広範である」場合は否定的意見(不適正意見)となるということです。
また、財務諸表全体に対して広範な影響を及ぼす場合とは、監査人の判断において以下のいずれかに該当する場合をいいます(監査基準委員会報告書705第4項(1))。
① 影響が、財務諸表の特定の構成要素、勘定または項目に限定されない場合。
② 影響が特定の構成要素、勘定又は項目に限定される場合でも、財務諸表に広範な影響を及ぼす、または及ぼす可能性がある場合。
③ 虚偽事項を含む開示項目が、利用者の財務諸表の理解に不可欠なものである場合。
東芝の決算において、「除外事項付意見を表明する原因となる事項」であるウェスティングハウスの減損を見るとその金額は6,522億円です。この数字を今回公表された最終損益の9,656億円という赤字額、その結果もたらされる債務超過額5,529億円と比べた場合、上記条件の②と③に該当します。なんの政治的判断を交えなければ、PwCあらたの意見は「不適正意見」となるはずです。会計監査において経営者との意見の齟齬を持ったまま妥協としての監査意見ではなかったでしょうか。外部から見て大いに疑問の残るところです。

(文責:安田正敏)

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