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日本人のための第一次世界大戦史 世界はなぜ戦争に突入したのか:板谷敏彦著/毎日新聞出版 書籍レビュー

2017年12月04日
歴史上初めての世界大戦と言われる第一次世界大戦について、長期で残虐な大量殺戮の戦争になった経緯と日本の歴史的なかかわりについての詳細に興味深い著述である。
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第一次大戦について著者は「勃興国の『影響力』と『敬意』の追求と、それに対する覇権国の『恐れ』が戦争を引き起こした」と書く。この歴史を縦糸とし、兵器、船舶、航空機、通信などの技術の進歩を横糸として叙述した歴史のタペストリーである。
 著者の問題意識には、世界大戦と言われるような長期で、国民総動員の戦争がなぜ、どのようにして起こったのかにあり、戦争処理の不完全さが第二次大戦に繋がって行った歴史の流れや、日露戦争から太平洋戦争に過程での周遅れの帝国主義としての日本の関わり方も分析している。
 戦争の勃発時に英国の若者は「クリスマスにまでには帰って来る」と家族に言って出かけたが、結果は長期の世界史上初の大戦となった。著者はその背景として国民国家の成立と戦争を支える強力な産業の成立を上げる。各国が戦争に向かったのには帝国主義的な膨張政策があったが、グローバリゼーションの中で比較優位と国際分業により抑圧された民衆心理の不満が原因でありこれは現代にも通じると著者は指摘する。
 残虐な大量殺戮の戦争の裏には、戦艦、戦車、飛行機の出現、(石油を使用する)内燃機関の発達、兵器の高度化、鉄道網や通信網の充実など著しい技術の進歩があるが、これらについては著者は最初の就職が石川島播磨社であったこともあり、極めて詳細で具体的な記述をしている。
 長期の大戦の中での疲弊感と厭戦ムードがロシア革命を引き起こした。敗戦国への過酷な賠償金徴求がドイツを第二次大戦に向かわせたが、「軍隊は負けなかったが民主化した政治家が戦争に負けた原因」とのプロパガンダが可能になった背景にも触れている。日本はこの大戦の中で中国問題の解決、東南アジアの権益拡大、シベリア出兵にと画策したが、日露戦争の総括が不十分なまま軍部主導で満州事変や太平戦争に向かう伏線となった。 

(文責:門多 丈)

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