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ルネサス「救済」は呉越同舟 門多 丈

2012年10月29日
産業革新機構を核とするルネサス社の企業救済「日本連合」には、コーポレートガバナンス上の利害相反問題がある。投資ファンドKKRの投資を排除する目的であったとすると、国際的な批判を招く惧れもある。
米国の企業投資ファンドKKRが数ヶ月にわたって交渉していたルネサス社の企業再生投資に、産業革新機構(以下「機構」)を核とする「日本連合」が突然割り込んできた。その唐突さは「官民一体の買収計画は異例の突貫工事で練り上げられた」との報道でも分かる。

今回の「日本連合」は「衣の下に鎧」が見えて納得できない。従前からルネサス社の主要製品であるマイコンの大口バイヤーの日本の自動車、家電メーカーは、KKRがルネサス社に投資し株主になることについて「ファンドが株主になると、(今までのような)安くて安定的な購入ができなくなる」と言っていたという。この発言は問題だ。企業投資ファンドに対する無理解だけでなく、これらのメーカーは今まで「下請け的に」ルネサス社から安く仕入れていたということではないか。そうであればルネサンス社の窮状はこれらのメーカーが引き起こしたということである。

機構とメーカーが共同して投資するスキームには、コーポレートガバナンスの面からは重大な問題がある。株主間の利害相反である。機構はルネサス社の収益改善による企業価値の向上を図るが、共同出資者であるメーカーはマイコンの安価の購入を狙うかもしれない。自動車、家電メーカーの株主が、どのように株主権を行使するかも不明だ。機構はルネサス社の株式の上場は維持する考えと報道されているが、このようなスキームをどうマネジするのか機構には説明義務がある。

今回機構が投資に動いたことについて、「ルネサスがなくなれば産業集積の重要な一部が欠損する。日本の製造業の基盤が揺らぐかも知れない」と経産省幹部が語ったと報道されている。今までもその論理と政策で経産省はやってきたのではないのか。それでもエルピーダ社やルネサス社の経営や事業は行き詰まったのである。アップルのスマートフォンでは日本の部品メーカーが健闘していると聞く。今や部品供給のグローバル化の流れは必然であり、日本もその恩恵を受けている。その中でルネサス社救済を「日の丸連合」で行うという発想はいかがなものか。

KKRは「官民一体の買収計画が固まった」ことを受けて、出資交渉から撤退したと報道されている。今回の「割り込み」について、日本経済・産業の閉鎖性として国際的に批判されるリスクがある。機構は今回の投資戦略、特に投資後の事業計画(事業再編と合理化・効率化、今後の技術。商品開発、事業戦略など)についての説明義務がある。

(文責:門多 丈)

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