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アセット・バリュー・インベスターズ社のTBSホールディングスに対する株主提案について 安田 正敏

2018年06月25日
アセット・バリュー・インベスターズ社(AVI)はTBSホールディングス(TBS)の総資産の19%、金額にして1,580億円の東京エレクトロンの株式の40%を現物でTBS株主に配分することを提案しています。しかし、本質的な議論は、TBSが将来の成長に向けた戦略を用意しそのためにこれらの過剰な資産を使う明確で具体的な計画を持つことを経営陣に求めることではないでしょうか。
今週6月20日水曜日にアセット・バリュー・インベスターズ社(以下、AVIという)が6月28日開催のTBSホールディングス(以下、TBSという)の株主総会に提出する株主提案について一般向けの説明会があり、出席しました。配布された資料の副題には「過剰な政策保有株式を縮減するための第一歩」とありました。

AVIはロンドンに拠点を置く、1,600億円以上の投資・運用を手がけるファンド・マネジャーでありTBSの発行済株式総数の1.9%を所有する株主ブリティッシュ・エンパイア・トラストの代理人です。1985年より日本企業への投資を始め、現在ポートフォリオの約20%は日本企業銘柄ということです。AVIは現在の日本企業の株式の価値は過小評価されている企業が多く、過剰な資本を保有しかつ証券会社等の調査機関がカバーしていない企業が欧米と比べて多いという観点から魅力的であると評価しています。

その過剰な資本を保有している企業の代表的な例がTBSであると説明します。その過剰な資本の大部分は「政策保有株式・持ち合い株式」という形で保有されており、それがTBSの資本効率を低くしていると主張しています。例えば2014年から2015年にかけてのTBSのROEは、伊藤レポートが示した水準8%、TOPIX構成銘柄の中位数の7%~8%、議決権行使助言会社であるISSの要求する5%に対し、そのいずれと比べても3%前後と大きく見劣りしている状況です。このためPBRは1.0倍を大きく下回っています。

このような状況を改善するためにAVIはTBSの総資産の19%、金額にして1,580億円の東京エレクトロンの株式の40%を現物でTBS株主に配分することを提案しています。

これに対してTBSは次の点を挙げて反対しているということです。

  • 東京エレクトロン株は、数十年前に極めて低額で取得したもので、価格が下落しても「失うものは何もない」
  • 東京エレクトロンは、将来の資本的支出に必要
  • 現物配当を実施することに伴う税務及び技術的問題
以上が、AVIのTBS株主総会への株主提案及びその意図と背景です。さて、このAVIの提案とTBSの反対理由についてどのように評価するかという点が本文の主題です。

政策保有株式と持ち合い株式とは区別して論じる必要があると思います。まず、持ち合い株式はコーポレートガバナンスの観点から見ると明らかに弊害をもたらしていると考えます。なぜならば、

 ① 相互に株式を持ち合うこと、つまり議決権の相互保有によって一般株主の議決権行使の効果が弱められます。
 ② このため経営者の責任感が希薄化され果敢な戦略的意思決定をして高い業績を求める姿勢が弱まる傾向が出てくる。これが、日本経済が長い間低迷した大きな要因の一つです。

TBSによる東京エレクトロン株式の保有は政策保有株式と考えられますが、2つの点から議論する必要があると考えます。

ひとつは、東京エレクトロン株の保有がTBSの資本効率に悪影響を与え企業価値を毀損しているかどうかという観点です。この点についてAVIは明確な説明をしていません。

もうひとつは、仮に東京エレクトロン株の保有がTBSの資本効率に悪影響を与え企業価値を毀損していなくても、東京エレクトロン株を含む多額の有価証券(4,470億円)を将来の発展に向けた戦略的投資に使用しないでいること、つまりこれらの有価証券から得られるリターンよりはるかに高いリターンの追求を怠っている可能性があるのではないかという点です。

AVIがTBSの株主として、会社の中長期的な企業価値の向上ということを目的にするならば、TBSが将来の成長に向けた戦略を用意しそのためにこれらの過剰な資産を使う明確で具体的な計画を持つことを経営陣に求めるべきではないかと思います。「東京エレクトロンは、将来の資本的支出に必要」という曖昧模糊としたTBSの説明は説得力を欠きます。

また、AVIが単に東京エレクトロン株を株主に現物配当することを主張するだけではこちらも説得力に欠けます。見かけ上ROEは改善するでしょうが、TBSの企業価値向上という本質的な解決策にはなりません。TBSの経営陣に対してこれらの過剰な資産を使いより高いリターンを追及する明確で具体的な計画を求めることで、この株主提案も他の株主の共感を呼ぶのではないかと思います。

(文責:安田 正敏)

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