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老後2000万円で議論すべきは 門多 丈

2019年08月30日
公的年金に関しての「老後2000万円資産」議論は、年金の支給「不足」にのみ焦点が当たった議論となった。国としての福祉の全体像を議論する中で、個人が自己責任でしっかり蓄財できるためのシステムの整備についての政策を議論するのが本来の趣旨である。

金融庁の「老後資産2000万円」報告書(正しくは金融審議会の市場ワーキング・グループの報告「高齢社会における資産形成・管理」)では、政府や与党には年金問題のパンドラの箱が開いたほどの激震が走った。「報告書」が公的年金の「積み不足」を示唆するように受け取られてしまった。議論がかみ合っていないのが実状だ。政府の言う公的年金制度の安全・安心とは、約束した通リに将来公的年金を支給出来るかの点でしか議論していない(これについては5年ごとに行われる年金財政の検証の結果を待つ必要がある)。一方野党は公的年金は「100年安心」ではないと攻撃している。

「報告書」は老後の年金生活を議論するには雑である。老後の生活のバラツキは大きい。国民年金の受給者にとってはそもそも209千円の収入は現実的ではない。老人介護施設に入所の場合でも、将来そのコストはカバーできないであろう。一定のルールで公的年金の支給の減額もありうる。企業年金がある場合も、80才での打ち切りのケースも多い。

麻生金融担当相の報告書を「受け取らない」との発言は、議論を封じることであり、かえって国民の不安をあおる。国としての福祉の全体像や個人が自己責任でしっかり蓄財できるためのシステムの整備についての政策も示すべきである。米国など諸外国に比べ日本の年金が充実しているのは明らかである。福祉国としてどこまで「丸抱えの年金」にするかの国のあり方の根幹を議論するのが、与野党ともに政治家の務めではないか。


※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2019年7月1日号「複眼」欄に投稿したものです。


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