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なぜ日本企業はiPhoneを創れなかったのか 門多 丈

2012年10月02日
日本の企業経営は、先見性を持ち積極果敢にチャレンジするリーダーシップをとっているか、消費者が「わくわくする」商品やサービスを生み出す自由闊達な企業風土を創っているかが問われている。これらについて経営の背中を押すのも、コーポレートガバナンスの役割である。
日本株はPER(株価収益率)や配当利回りから見て悪くはないのに、なぜ人気がないのだろうとの疑問を聞く。多くの会社、特に大企業で明確な事業戦略が描けていず、将来の収益をどう稼ぐかについて投資家を説得できていないのではないか。やはり株価は企業の収益の伸びが期待されるときにのみ上昇すると思う。

スライウォツキー著「ザ・ディマンド」(日本経済新聞出版社刊)を読んだ。この本の帯には「なぜ日本企業はiPhoneを創れなかったのか」とある。この本はマーケティングの理論を進化させ、消費者の潜在的ニーズを実際の購入に向かうように持っていく企業の経営戦略を論じている。特に使い勝手の悪さなど、消費者の失望、ためらい(著者はそれを「ハッスル」と称している)をいかに認識するかが経営にとっては重要であること、また爆発的なヒットを生むには商品やサービスに「わくわく」感が必要と述べている。アップル社のiPhone,iPad やアマゾン社の電子書籍キンドルなどが本書で成功例として挙げられている。

「なぜ日本企業はiPhoneを創れなかったのか」との問題提起は大きい。優れた技術や品質だけではなく、消費者を夢中にする魅力をいかに生み出し、商品やサービスの差別化と顧客のロイヤリティ(忠実度)を確保するように経営しているかが、日本の企業経営に問われているということである。先見性を持ち積極果敢にチャレンジする経営のリーダーシップが取られているか、消費者が「わくわくする」商品やサービスを生み出す自由闊達な企業風土を創っているか、が問われているのである。この答えを出せていないことが日本の株式の不振の根底にあるのではないか。このような方向で経営の背中を押すのも、コーポレートガバナンスの役割と思う。

この本の中での米国の有力ベンチャー・キャピタルであるクライナー・パーキンスの最近の投資戦略についての記述が興味深い。ベンチャー・キャピタルをなぜマーケティングの本でとりあげるのか当初は判然としなかったが、成功する投資をいかに継続して行っていくかの論考がその趣旨であった。同社は「偉大な挑戦マップ」を書いた。エネルギーの蓄積、水、電力、輸送などのディマンド成長の機会がある分野と技術でのマトリックスでのマップである。同社はそれに基き現在グリーン自動車、燃料電池、太陽光発電、バイオ燃料など十数件に投資している、とある。まさに先見性のある経営である。日本企業も今こそこのような長期的な視点で投資し経営資源を配分することを求められているのではないか。このような方向で経営の背中を押すのも、コーポレートガバナンスの役割とも思う。

(文責:門多 丈)


コメント

日本独特の商慣行、産業構造、規制なども関係している 安田正敏 | 2012/10/03 15:33

日本の企業が消費者のニーズをつかみきれず先見性のある商品を世界市場に向けて送り出せない状況はご指摘のように「企業の経営者に先見性を持ち積極果敢にチャレンジする経営のリーダーシップが取られているか」という問いに大きく関係していると思いますが、それに加えて日本独特の規制や産業構造も関係していると思います。 

ひとつの典型的な例がiPoneとガラパゴス端末の例です。日本の携帯端末メーカーの仕様はキャリアーである国内志向のdocomoの意向に大きく依存しておりdocomoの意向を無視した仕様をつくることは国内市場でのシェアを失うことを意味します。 

かといって国内向けと海外向けの両方の開発研究をする余裕は日本の端末メーカーにはなく結局ガラパコスといわれる日本独自仕様にしか「進化」できなかったわけです。 最近はこの点は改善されているようですがしかし遅きに失したという感じです。

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