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関西電力金品受領不祥事~何のための調査委員会だったのか 門多 丈

2020年01月06日
関西電力金品受領不祥事の調査委員会は事実の解明で手間取っているが、事件の根底にある、隠蔽体質や見て見ぬふりをする企業風土と内部統制の
不備の問題を分析し、再発防止策を提言すべきである。役員による多額の金品の受領を知りながら、「違法性がない」とし取締役会にも報告
しなかった監査役の責任も追及すべきである。

菓子箱の底に金貨とは、まるで時代劇の悪代官の所作ではないか。関西電力はガバナンス報告書の冒頭では「事業運営の透明性・健全性」をうたっているが、金品受領事件は同社のガバナンス、コンプライアンスが全く機能していないことを明らかにした。同社の経営理念には「お客さまと社会のお役に立ち続ける」とあるが、同社の経営陣には企業倫理や社会的責任の自覚がない。 

昨年9月に外部弁護士を含めての調査委員会で報告書がまとめられたが、限られた範囲での事実調査に終わっている。委員6人のうち3人が関西電力の執行役員であり客観性も疑問だ。調査結果は取締役会には報告されていない。監査役会はこのような経営執行の業務上の不正について情報を得ていながら、「違法性がない」との判断で取締役会には報告しなかった。経営の重要事項であることは明らかであり、取締役会に報告し審議してもらうのが監査役の当然の責務である。監査役は独任制であり、誰か一人でも声を上げれば取締役会が取り上げざるを得なかったはずである。 

関西電力経営陣の金品受領は企業犯罪だ。巨額の金品を受け取っているのが関西電力の原発事業関係の役員であることからも明らかなように、高浜町の森山英治元助役の金品提供は利権絡みの収賄事件である。記者会見で岩根茂樹社長が「違法性はないと考え、公表する必要はないと判断した」と説明したが、どのような法的観点から「違法性」を検討したのかが疑問だ。会社役員の職務に関連しての金品受領については、会社法967条の「取締役等の贈収賄罪」についての違法性判断をすべきである。原子力事業本部長であった副社長ら3人は、工事を発注していた建設会社から直接お金を貰ってもいた。まさに収賄である。

 岩根社長は20人の役員の金品受領の詳細について、当初は「個人情報」であるので開示できないとした。関西電力の役員であったから、金品を貰ったのは明らかである。そのようなお金を出せる余裕のある個人も滅多にはいないと思うが、受領した関西電力の役員は資金源に疑問をもたなかった。

 原発事業関連の工事の概算額や予想される工事量などの情報が元助役に伝えられていた。そのような工事は競争入札にも付さなかった。特定の業者に工事受注に関する情報を流すことは、関西電力の役員としての背任行為である。関西電力は原発事業とは関係ない京都支社の建設工事を、元助役がアドバイザーになっている吉田開発に発注していたことも判明した。

 今回の事件のコンプライアンス上の問題は、関西電力の経営陣が金品を個人的に受領し隠蔽していたことである。経営陣は「原発事業のスムースな推進」のために、返金・返品が困難であったと説明する。関西電力の役員ら20人は2018年に16千万円を元助役に返金したとされるが、税務調査を知ったので返却したのではないか。関西電力の経営陣は、問題や情報を共有し企業のレベルでの正しい解決をはかるべきであった。受け取った金品は会社が管理し、社外取締役や監査役会が監督する方策を講ずるべきであった。

 関西電力の第三者委員会が発足した。 委員会のメンバーは検察、裁判官出身者で構成され、調査委員会の調査事項には企業風土やガバナンスが入っていない。再発防止のためには関西電力の隠蔽体質や企業風土を変える必要がある。関西電力の社員は、今回の事件で「上だけが得をしている」と思っているであろう。消費者は不透明なコストが電力料金に乗せられていることを危惧する。まずは関西電力の取締役会で社外取締役がリードし、公私混同と隠蔽の企業風土の改革、企業組織や事業運営の透明性・健全性の向上を基本として、再発防止策を策定すべきである。

※ 本記事はニッキンレポート 2019年11月4日号「ヒトの輪」欄に投稿したものです。



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