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続発する金融機関のスキャンダルを憂う 門多 丈

2012年09月06日
グローバルな金融機関の不祥事が続発している。経営が金融機関としての使命を忘れ、短期利益を志向し顧客利益を軽視していることが背景にある。このような経営の姿勢を正すには、社外役員が積極的に参画する取締役会でのコーポレートガバナンス体制の充実が重要と思う。
野村証券の増資インサイダー事件、英バークレーズのLIBOR、香港上海銀行のマネー・ロンダリング疑惑、スタンダードチャータード銀行のイランとの不正取り引き、とグローバルな金融機関の不祥事が続発している。いずれも悪質で経営のガバナンスが厳しく問われる事件である。

野村証券は利益相反にある企業引受部門と機関投資家営業部門の間の情報遮断(チャイニーズ・ウォールの設置)を怠った。投資銀行としての基本的なインフラをつくらなかったのであり、職業倫理にも反する。これについて日経新聞7月27日付「けじめを市場の質の向上に」記事で、小平龍四郎編集委員は「インサイダー情報を伝えるだけでは原則、罪に問われない」と述べているが、何を言いたいのか分からない。他人に伝えてはいけない情報だからこそ、インサイダー情報というのではないか。増資ファイナンスの顧客である企業の情報を証券営業の顧客である機関投資家に伝えることは、投資銀行業としての自殺行為である。

続発する金融スキャンダルの背景には、金融機関のトップが企業としての使命を忘れ、足元の短期利益(ROE)志向に陥っていることがある。我々のブログで何度も繰り返してきたが、金融機関の経営者はその社会的使命を自覚し、取引先や預金者などの利益を重視するべきである。また多様で複雑な取引に携わるなかで、常に利害相反関係(顧客との、顧客間での、の両方)に配慮することも極めて重要となってきている。

チャールズ・エリス著「ゴールドマン・サックス」(日本経済新聞社)に興味深い記述がある。70年代に当時のトップであったホワイトヘッドが、十数ヶ条で同社の理念を示した。その第一条は「つねに顧客の利益が第一です。顧客によいサービスをすれば、成功は自ずとついてくる」となっているとのこと。自己投資に力を入れアグレッシブな利益志向が顕著な同社が、この理念を現在守っているとは思われない。同社も日本のメガバンクの増資の際に、今回の野村証券と同じようなインサイダー疑惑があり英当局から調査を受けた過去がある。

このようなゴールドマン・サックス社の「変質」は、同社がパートナーシップを株式会社化し1999年に株式公開(IPO)したことに原因があると思う。同社の幹部が市場から株価重視の経営を迫られ、株式オプションで自己の利益も実現できることで、短期利益志向の経営を行うようになった。従来のパートナーシップでは出資者として同社のOBがパートナーとして残り睨みを効かしていたが、これもワークしなくなった。

このような金融機関経営者の過度の収益指向を正し「暴走」を防ぐには取締役会による監督・監視が重要であるが、野村証券や香港上海銀行などの取締役会がこの点でどう機能していたかはあまり報道されていない。社外役員が積極的に参画する取締役会によるコーポレートガバナンス体制の充実こそが、このような不祥事防止のためには重要と考える。

(文責:門多 丈)


コメント

社会的共通資本としての金融システムの在り方に問題あり 井出亜夫(日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授 ) | 2012/09/15 12:10

実業をサポートする金融の役割が、金融の肥大化により、現実世界から遊離してしまったところに大きな問題があります。宇沢弘文先生が指摘するように社会的共通資本としての金融システムの在り方に大きな問題があります。 
20世紀末から今日までの間に、製造業の世界では、製造物責任(製造物による被害は無過失責任が問われること)及び拡大生産者責任(製造業者は、生産、消費の段階だけでなく廃棄の段階まで責任を負うこと)、食品安全ではトレーサビリティーが問われることになりました。 
金融の世界でこれらに相当するCSRの枠組みを作るべきではないでしょうか。いずれにせよ、金融は与件ではなく、金融システムのあり方について非金融界からも注文を付け、問題提起をすべき時に来ています。

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