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社外取締役の「5つの心得」 門多 丈

2021年03月10日
現在進行中のコーポレートガバナンス・コードの見直しでは、取締役会や指名委員会の機能強化が議論されていて、社外取締役が役割を自覚し積極的に貢献することが一層求められている。昨年7月に公表された経産省の「社外取締役の5つの心得」は、その責任を果たす有効な指針であると思う。

コロナ禍での企業経営では、長期のサステナビリティ、すべてのステークホールダーの視点と資本効率の点からの事業ポートフォリオの見直しが重要になって来ている。いずれも社外取締役の経営執行監督の責任に関するものである。現在「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」でのコーポレートガバナンス・コードの見直しでは、「新設予定の上場株のプライム市場(仮称)では上場企業については独立社外取締役の3分の1以上の選任」、独立社外取締役が主要な役割を果たす「指名委員会、報酬委員会の機能向上」が議論されている。 

昨年7月に経済産業省が公表したCGS研究会「社外取締役の在り方に関する実務指針(「ガイドライン」)では、社外取締役の役割と責任について具体的に「5つの心得」が示されている。

《心得1》社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督でありその中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価である。

《心得2》社外取締役は、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、経営戦略を考えるべきである。

《心得3》社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。

《心得4》社外取締役は、社長・CEOを含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。

《心得5》会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。

 「ガイドライン」は社外取締役からのアンケート(1350名)と精力的なインタビュー(42名)を踏まえ、CGS研究会で議論し作成された。同時に参考資料として「社外取締役の声」が公表されたが、そこではガバナンス改革でのベスト・プラクティスを示すとともに、現場の社外取締役の心構え、工夫、悩みを鮮やかに映し出している。

 《心得1》経営の監督と評価に関して、「社外取締役の声」では、指名委員会として「経営者の1年間の評価を行い、その評価を踏まえた上で、来期も経営を任せるか否かを判断している。まず期初に社長と対話を行い、今年度の社長のミッションと各ミッションの重要度を定めている。年度途中にも中間レビューを行い、1年間が終わった段階でミッションに対する達成度について5段階の評価を伝え、『あなた自身はどう思いますか』と社長自身による自己評価を聞いている」との実例が説明されている。

 《心得5》会社と経営陣・支配株主等との利益相反の監督については、「上場子会社の社外取締役としては、親会社の事情でビジネスが決定されていないかどうかをチェックしている」、「筆頭株主との経営統合の話が持ち上がった時に特別委員会を組成したが、少数株主に対して、弁護士やフィナンシャルアドバイザーの方々からのきちんとした資料や分析に基づき、正しい説明ができるかどうかに留意していた」との先進例の紹介もある。

 「社外取締役の声」第2章は、社外取締役としての具体的な行動の在り方についてとして、就任時の留意点、取締役会の活性化と実効性の向上、指名・報酬への関与の在り方、社長・CEOとのコミュニケーション、取締役会以外での情報収集、投資家との対話やIR等への関与、研修と研鑽などについての、豊富な実例が報告されている。

 今後社外取締役の数や取締役会の中での比率が増える(特に論客が多くなるであろう)中で、適確なアジェンダの設定や効果的で効率的な取締役会の運営が重要になる。「ガイドライン」では取締役会事務局のサポート機能の充実についても論じている。優秀な人材を取締役会事務局に置き、経営幹部の人材育成のコースにすることも一案と思う。

※ 本記事はニッキンレポート2021年1月18日号「ヒトの輪」欄に投稿したものです。


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