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モニタリング・ボードへの脱皮 門多 丈

2022年02月09日
昨年のコーポレートガバナンス・コード改定での重要な課題は、取締役会の実効性評価の充実、スキルマトリックスの作成、社外独立取締役が主導する指名委員会委員会の機能の定着である。

今年のコーポレートガバナンス・コードの改定では、プライム市場上場会社については独立社外取締役を1/3以上の選任(コーポレートガバナンス・コード原則4-8)と独立社外取締役が取締役会の過半を占めない場合には指名委員会、報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすべき(補充原則4-10①)など、経営の業務執行を監督するモニタリング・ボードの特徴がより明確になってきている。そのために取締役会として注力すべき事項は、取締役会の実効性評価とスキルマトリックスの深堀り、指名委員会委員会の機能充実である。

取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)については、当初は外部コンサルタントも使い取締役へのアンケートなどで行った。取締役会の開催頻度や会議の時間、社外取締役の人数、事前の書類配布の充実度などの調査で形式的なものが多かった。企業のパーパスや長期的な企業戦略、事業ポートフォリオや資本の効率について実のある議論をする場になっているか、経営執行の牽制、リスク管理の機能を果たしているか、ESGなどへの配慮と社会的責任の自覚を検証するのが実効性評価の本来の目的である。

今回のみずほシステム障害の金融庁の処分では、取締役会の経営の業務執行の監督が不十分であったと指摘している。取締役会の判断と意思決定が、具体的に企業価値の向上に繋がっているかの検証も重要になってきている。取締役会の構成、社外と社内の役割分担、個々の取締役のスキルも評価し、不十分な場合はそれに相応しい社内、社外の取締役の起用することが求められる。

多様なバックグラウンドを持つ取締役が効果的な議論をリードするためには、取締役会議長の役割も重要になり独立取締役が就くべきである。今までのように社長など執行が議長を勤める時代ではなくなってくる。取締役会ではアジェンダの設定が重要となる。法定や規則による議案で済ませるのではなく、戦略・リスク、資本効率、事業ポートフォリオ、内部統制などを議論し、意思決定をすべきである。そのためには取締役会事務局が果たすべき役割も大きい。独立社外取締役の支援も含め取締役会事務局の機能の充実は重要であり、将来の経営幹部になるような優秀な人材を意識的に配置すべきである。

スキルマトリックスの開示は、今回のコーポレートガバナンス・コードの改定で求められることとなった(補充原則4-11①)。現状ではスキルマトリックスの多くは、現在の取締役メンバーの特性を図解しているのに過ぎない。「実効性評価」を踏まえたフォワードルッキングなものになっていない。項目としても「営業」や「国際経験」などの表現では不十分であり、企業の戦略やサステナビリティの課題にどのような経験や知見が必要か厳密に定義すべきである。海外ではDXESG/SDGsがスキルの項目に入ってきている。

指名委員会には、経営陣幹部と取締役指名の2つの役割がある。独立社外取締役は経営陣の諮問を受けて議論するのではなく、能動的な関与が求められる。すでに三菱ケミカル社などは指名委員会が主導し、社内外の候補の中から企業の成長・競争戦略に相応しいCEOを選出した。モニタリング・ボードとしての取締役会の継続性(「ボード・サクセッション」)の観点からは、独立社外取締役が過半の指名委員会が主体的に選出すべきである。具体的には、社内取締役候補については執行役員段階から経営陣の意見も参考に長期的に観察・評価し、社外独立社外取締役についてスキルマトリックスを念頭に置いて広くサーチし選出することが求められる。

取締役会の実効性評価、スキルマトリックス、指名委員会委員会の機能は、投資家との対話の重点項目であり、今後独立社外取締役はこの説明責任を負う覚悟が求められる。

※ 本記事はニッキンレポート「ヒトの輪」2022年1月3日号に投稿したものです。


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