エネルギーの地政学 門多 丈
かつて「石油の世紀」を描いたダニエル・ヤーギンの近著「新しい世界の資源地図」(東洋経済新報社)ではエネルギー情勢を地政学に加えて電気自動車・自動運転技術、天候異変問題の観点から分析している。
今世紀に入って米国で起こったシェール革命(頁岩からガスや石油を絞り出す技術の実用化)のインパクトに驚く。米国のエネルギー消費の輸入比率は、05年は60%であったが現在は輸出国である。このような構造的な改善が米国の中東政策を根本的に変化させた。ロシアのウクライナ侵攻に依るエネルギー需給のひっ迫も、シェールなしではさらに惨憺(さんたん)たるものになったであろう。
本著はウクライナ侵攻前に書かれたが、13年以来の欧州やウクライナとロシアの亀裂、14年の米国のロシア金融、防衛、エネルギー部門制裁、などは現在を暗示している。この時期に、バルト海を通してドイツにガスを供給するノルド・ストリーム2が着工された。ロシアのパイプライン供給のウクライナ依存を減らす狙いを過小評価した、メルケル政権の外交政策上の失策である。
中国のロシアからの天然ガスの輸入は、価格交渉で長年難航していた。ロシアへの経済制裁のおかげで中国は「廉価」での輸入が可能になり漁夫の利を得た。中東ではイランのシーア派革命防衛隊が近隣諸国に侵入し内戦状態を起こし、レバノンのように国として体をなさない状況も蔓延している。ウクライナ侵攻後のインフレで、エジプト、トルコなどの対外債務や通貨危機も深刻化している。石油依存から脱却しようとするサウジ王朝が存続可能なのかも心配だ。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞9月13日号「複眼」欄に投稿したものです。
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