時代遅れの損保会社 門多 丈
企業向け保険で事前に価格調整をしていた問題で、損害保険会社大手4社は公正取引委員会(公取)の独占禁止法(独禁法)違反の処分を受ける。この事件に関し損保ジャパンでは「調査報告書」が出されている。この調査委員会の委員の全員が弁護士であるのは、調査の目的が「不適切行為」の法律的な面のみならずガバナンスや内部統制、企業風土、再発防止策を検討することからは奇異に感じる。
「調査報告書」で明らかになった内実は、優良企業と言われた損保会社とは異なり時代遅れの酷いものである。保険料の見積もりを顧客から依頼を受けると、損保会社間で直接連絡を取り合い、保険代理店が取りまとめを行うことで独禁法に日常的に違反していた。コンプライアンス部門作成のマニュアルで、独禁法違反の行為類型として「保険料見積もりの際の競合他社との情報交換」を記載し注意喚起をしようとしたところ、営業企画部の反対で削除された経緯も明らかにされている。
これらの「不適切行為」は、長年同社の営業部門で続けられてきたのであり、新経営陣も過去には関与していたのではないか。その責任を曖昧にした上での「再建」はありうるのか。「調査報告書」では、旧役員陣の責任について「例えば社外取締役の監督の下での調査など、客観性のある形で調査し、然るべき処分を行うべきである」とあるが、今回の公取の処分を受けてより責任を明らかにすべきである。再発防止のためにはパーパス経営の徹底とあるが、過去の責任の十分な解明がないままでは構造改革も不徹底で、社員も納得しないのではないか。
1995年保険業法などの改正で、保険商品・料率の自由化があり、その中で損保業界の寡占化が著しく進んだ。このような業界の構造変化が、独禁法違反の談合や違法な情報共有を生む土壌にもなった。大手損害保険会社のあからさまなカルテル行為を、ここまで放置していた金融庁の監督責任も問われる。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2024年7月23日号「複眼」欄に投稿したものです。
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