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小林製薬不祥事と取締役の善管注意義務 門多 丈

2024年11月25日
不祥事が発生した場合、社外取締役や監査役は、企業経営が迅速で適確な開示と適切な対応をすることを監督
する義務がある。

小林製薬は紅麹事件に関し、執行役員並びに社外取締役及び監査役報酬の減額を発表した。責任の対象を、執行役員、社外取締役、監査役に広げる動きとしては注目するが、報酬の「辞退」であり、「当社の企業価値向上に向けて、全社一丸となって再発防止策を実行していくに当たり、社内の役職員との信頼関係をより一層強めて取組を進める」ためとあり、経営執行の業務上の責任と社外取締役や監査役の内部統制の監督・監査の責任を問うものではない。 

取締役会が外部に依頼した事実検証委員会の調査報告(「調査報告」)によると、2月の段階で社内のグループ執行審議会(GMO)には「紅麹関連商品を摂取していた患者の腎障害の入院例が連続で発生している」が取り上げられており、当時の代表取締役会長の小林一雅氏にも報告されている。小林氏はその時点で行政報告や製品回収の指示を出していない。本件の深刻さはその後何度も開かれたGMOで協議されており、医師や弁護士等の外部専門家にも相談している。その際には外部弁護士からは(疑わしい事例がありうるので)「行政報告の要否について、まずは当局と相談する」案もでているが、特に行動は起こしていない。 

取締役会の過半を占める社外取締役に報告されたのは3月20日であり、内部統制の重大な欠陥である。6月11日の取締役会でも、小林氏は紅麹サプリメントとの関連が疑われる死亡者が増えたことの公表に強く反対したとの報道もある。常勤監査役は、2月のGMOに出席しており問題の重要性を認識すれば、直ちに臨時取締役会の開催などの適切な対応を意見すべきであった。 

「調査報告」は事実関係の調査のみで、取締役の善管注意義務については判断していない。前述のような内部統制の不備については、社外取締役を含めた取締役会の責任になる。特に開示の遅れは致命的であり取締役会の善管注意義務違反が問われる。同社の株価は社内で事件のレポートが執行陣にあがった2月16日は6079円で、事件の開示後の3月25日の株価は5056円に下落した。この間に株を買った投資家が、事件が公表されていれば買値は下がっていたはずと、損害賠償訴訟がありうる。紅麹被害者による損害賠償の訴えも覚悟すべきで、台湾では既に訴訟が起こっている。

※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2024年10月22日号「複眼」欄に投稿したものです。


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