なりふりかまわぬMBO 門多 丈
セブンに対するカナダACT社の買収提案に対抗し、伊藤家を中心としたMBOの動きがある(井阪現社長の関与が不明であり、この買収案をMBOと言えるかは疑問)。正式提案になれば、セブンの社外取締役で構成する特別委員会は2つの買収提案に対し意見表明の義務がある。具体的には現在の経営陣のままで行くか、買収案のいずれかを取るか、それぞれの戦略・事業戦略と収益計画とリスク要因を勘案し、予想される3者の将来の企業価値を算出し比較する必要がある。
現在のセブン経営陣はコンビニ事業のグローバル化を標榜するが、どのようなシナリオで達成するかが見えない。伊藤家はヨーカ堂の縮小などに反対し、いわばセブングループの負のレガシーの存在のように見えた。今回の買収提案では、どのような成長戦略を描いているのかの説明が必要である。ACT社の米国でのコンビニ事業は、セブンに比べ資本の効率が秀れ収益性が高いので、同社は米国のセブン事業買収による企業価値向上に自信があるのではないか。
買収合戦では最後は株価の勝負である。米国の公的年金などの機関投資家は、忠実義務の点から最も高い買収価格に応じる義務がある。3者が自らの目指す企業価値を意識して買収株価を提示することになるが、前述のような状況から、ACT社には買収価格を上げる「のりしろ」がかなりあるのであろう。カナダの公的年金などもこの買収に対する出資支援を表明している。伊藤家は9兆円規模の買収を計画するが、メガバンクの巨額の融資の梃子(レヴァレッジ)を効かせる考えだ。しっかりした戦略による企業成長がない限り、過大な借入れはリスクが高い。当初はこの借入れはSPC(特別目的会社)が負うが、最終的には買収後のセブンが借金を肩代わりすることになる。巨額の債務増加は、借金の返済や金利払いに追われ成長の桎梏となる。今回の伊藤家の選択はなりふり構わぬMBOとも言うべきで、未公開化で先の展望が見えなくなった東芝と同じ道を辿るのではないか。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2024年12月16日号「複眼」欄に投稿したものです。
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