CG改革が労働分配率を下げた? 門多 丈
ROE重視が日本の低い労働分配率の原因であると、著名なエコノミストが論じている。労働分配率は1990年代から急激に低下しており、CG改革のせいにすべきではない。労働分配率の分母である企業の付加価値が、グローバルに見て低水準にあることが問題である。90年のバブルの崩壊後、企業経営は設備投資・研究開発を積極的に行わなかった。この間に労働者の賃金抑制が起こり、非正規雇用の労働者の比率も高まったのである。
その結果日本企業は生産性の向上や事業の効率化が遅れ、価格競争力が弱いなかで、大企業、中小企業とも営業利益率が低い状況が続いている。CG改革はそのような縮小均衡の姿勢の企業経営に対し、企業のミッションに沿った成長軌道に乗るように、取締役の強化などの当地の枠組みの強化を目指したのである。
CG改革の議論は、ROEに加えて継続的な成長戦略へと広がっている。中長期的な企業価値の向上を目指すサステナビリティ経営では、資本と労働への分配を二項対立的にとらえるべきではない。人的資本経営の中では人件費は経費ではなく投資ととらえるべきであり、企業経営は資本と人的資本のコストの双方に報いるように配慮すべきである。
トランプ政権の誕生で、ESG、ダイバーシティや天候異変に関する開示などについて米国企業の「後退」は由々しき事態と思う。長期的ビューで企業価値の向上と社会的な課題の解決をできるだけ調和させることを目的とするCG改革の旗を日本は降ろすべきではない。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2025年2月17日号「複眼」欄に投稿したものです。
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