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インサイダー取引問題、証券会社だけの問題か? 安田 正敏

2012年07月31日
今回のインサイダー事件は、ヘッジファンドなどの一部の投資家がその倫理を踏みにじって証券会社の営業員に情報を要求し、それによって投資パフォーマンスを向上させたこと、また営業員もそれによって個人業績向上を図れたという持ちつ持たれつの構造から起きています。このような構造を断ち切るには証券会社側の情報管理体制の見直しだけでなくインセンティブ・システムを含めた管理体制全体の見直しを図ると共に、投資家側も倫理観と規律に基づいた公正な投資を行うべきだと思います。
7月27日の朝刊各紙は、野村ホールディングスの渡部賢一グループ最高経営責任者(CEO)と柴田拓美グループ最高執行責任者のインサイダー問題に対する引責辞任と追加調査結果及び再発防止策について報道しています。

野村證券の不祥事は大口顧客への損失補填していた問題で1991年に当時の田淵義久社長が辞任して以来今回の事件までほぼ「恒常的」に発生しており、そのほとんどが特定顧客に対する利益あるいは利便の供与です。しかし、これは野村證券だけに限った問題ではなく日本で営業する証券会社に共通しています。時を同じくしてSMBC日興証券、大和証券グループのインサイダー取引問題を起こしていることは周知の事実です。7月3日には、金融庁が国内大手証券会社5社と外資系証券会社7社の12社に対して情報管理体制に関する点検を行うように命じています。

問題を起こした証券会社は例外なく「会社の組織的行為ではない」と言っています。この発言は言外に「会社が意図的・組織的に関与した行為ではないが、管理体制に問題があった。管理体制を改善し今後の再発防止を防ぐことが経営者の責任である」と言っている訳で、野村の渡部CEOもこの考えで6月末には辞任を否定していました。しかし、証券会社の後を絶たぬ不祥事の原因を考えると、意図的ではないにしても結果として組織運営のあり方が不祥事に深く根ざしていることは否めないと思います。

つまり、証券会社の営業部門は、何十年も変わらずに、営業員の報酬及び昇進が極めて高い目標、いわゆるノルマに基づいたインセンティブ業績評価を軸に運営されているということです。好業績を上げるために今回のようなインサイダー情報を利用して顧客に便宜を図る営業員が少なからず出てくることを阻止することはこのシステムの中では相当に難しいということです。

一方で、証券会社の営業員のそのような立場に付け込んで利便を要求する顧客も証券会社の営業の歴史と同じくらい古くからいました。特に、大口の注文を出す法人顧客や大手投資家は営業員対して圧倒的に優位な立場を持っていますから、もし彼らが投資家としての倫理を超えて証券会社の営業員に利便を要求した場合、上記のようなインセンティブ・システムの中で生きている営業員にとってはそれを断ることが極めて難しい状況におかれます。なぜなら、そのような投資家は別の証券会社に同じ要求を振り向ければいいからです。

今回のインサイダー事件も、ヘッジファンドなどの一部の投資家がその倫理を踏みにじって証券会社の営業員に情報を要求し、それによって投資パフォーマンスを向上させたこと、また営業員もそれによって個人業績向上を図れたという持ちつ持たれつの構造から起きています。
このような構造を断ち切るには証券会社側の情報管理体制の見直しだけでなくインセンティブ・システムを含めた管理体制全体の見直しを図ると共に、投資家側も倫理観と規律に基づいた公正な投資を行うべきだと思います。またマスコミの報道は、証券会社に対する批判だけでなく投資家サイドの規律の問題にも目を向けるべきだと思います。

(文責:安田正敏)

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