人的資本投資を考える 門多 丈
AIの普及もあり、企業の求める人材の資質やリスキリングが大きな課題になってきている。従来は資本主義は金銭の資本で成り立つ仕組みと考えられおり、人間の貢献に対しては賃金で払うことで考えられていた。人的投資は、会計的には研究開発費の一部などを除き、資産にはならず、企業価値の点からの深い議論はなかった。かつての日本企業の取締役会では、賃金のあり方などを社外取締役が議論する機会はほとんどなく、経営執行の専管事項のように考えていた面もある。
人的資本投資が設備投資とは違うのは、人生設計や生きがいに絡むモチベーションが伴うべきことにある。賃金体系のみならず、企業戦略に沿った人材のシフト、リスキリング、プロフェッショナルの採用、女性の活躍、息の長い研究開発、など総合的取り組むべき課題となっている。
企業が社会的な存在として考えられ、サステナビリティ、パーパスやサステナビリティの点から評価されるようになると、人的資源の管理や支出は、企業価値の大きな形成要因と考えるようになっている。M&Aの際の買収価格の中では、人的資源は企業価値の一部を構成すると解され、買収価格にも反映する仕組みとなっている。
企業戦略と人材投資戦略を連動させることが重要で、取締役会でエクイティ・ストーリーをしっかり論議し、経営執行が然るべく対応しているかを監督することがコーポレートガバナンスの重要な課題になっている。
現在の我が国の人的資本経営の喫緊の課題は、まずはインフレによる実質賃金のマイナス上昇率を解消することにある。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2026年6月21日号「複眼」欄に投稿したものです。
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