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委員会設置型ガバナンスとビッグネームの落とし穴 大谷 清

2012年05月07日
経営と執行を分離した米国型ガバナンスをいち早く導入して成長を目指したはずのソニー。しかしその下で選んだストリンガーCEO時代は、結果として期待はずれのパフォーマンスに終わった。ガバナンスの形を変えただけでは企業は成長しない。ビッグネームを社外取締役に並べるだけでは十分ではない。その企業に深い愛着を抱き、成長へ並々ならぬ情熱を注げる社外役員を探し出せ、というのが市場の切実な声ではないだろうか。
ソニーは2003年、上場企業の先頭集団として委員会設置会社に移行した。オリックス、野村ホールディングス、HOYAや、日立製作所、東芝、三菱電機なども一緒だった。グローバル企業にふさわしいガバナンス改革、としてメディアも大いにもてはやした。

現在も指名、報酬、監査の3委員会を設置、各委員会の議長には社外取締役をあてる米国型のガバナンス体制を実践、社外取締役が取締役会の過半数を占めている。しかし委員会型に移行してからの約十年、ソニーの業績は、しばしばベンチマークされるAppleにもSamsungにも大きく見劣りするパフォーマンスに終わった。

ガバナンスの形と企業の競争力とは別、というなかれ。ガバナンス改革は企業の持続的な成長を目指すため、と委員会設置型に移行した企業はどこも高らかに謳った筈だ。しかし委員会設置型会社に移行した企業のパフォーマンスは期待したほどではない。日本総合研究所の「委員会設置会社のパフォーマンス分析」と題するレポート(2011年12月)によると「利益の質や実態的裁量行動など、一般的にあまり用いられない評価指標にまで踏み込んだ詳細な分析を行って初めて、委員会設置会社の相対的優位が明らかになる程度の微小なもの、と控えめに解釈するほうがふさわしい」という。

委員会設置型会社は2003年に鳴り物入りでスタート、一時は70社を超える数にまで増えたが、2009年から廃止する企業が目立ち始め、今では50社程度にまで減っているという。日本総研のリポートも「委員会設置会社への移行がもたらすベネフィットの大きさを根拠に、株主主権的なガバナンス改革の方向性を正当化するのは難しい」と結論付けている。

委員会型企業における社外役員や彼ら、彼女らが主導する委員会は、経営の「監督」だけが役割ではない。リスクをコントロールしながら、あくまで将来にわたって企業を成長させていくのが使命のはずだ。東京電力の社外役員が原発事故後、それまでの東電の経営と安全対策についてあたかも他人事のように批評するのを見て驚いたことがある。企業を、その存続にかかわる深刻なリスクから守り、ステークホールダーの期待を担って持続的な成長に力を貸すのが社外役員の責任にはずなのに。

日立製作所はこの6月末の株主総会から社外取締役を増やして過半数にする。新しく社外取締役にノミネートされているのは米国スリーエムの会長ジョージ・バックリー氏、元シンガポール経済開発庁長官のフィリップ・ヨー氏らだ。「経営の監督と執行の分離を徹底し、グローバルで多様な視点を経営に反映させるとともに、監督機能の更なる強化を図る」のが狙いで、ソニーとの違いは指名、報酬、監督の各委員会の委員長には社内取締役が就任していることだ。

大企業ほど社外取締役にビッグネームを選ぶ。しかし社外役員であろうとなかろうと、経営者とは、かつてGE会長のジャック・ウェルチ氏が喝破したように「あがり(culmination)」のポジション」では決してない。「大所高所から経営に意見をいただく」ためなら社外取締役でなく、外部に経営諮問委員会を設けて委員にすれば十分だろう。

ガバナンスの形が委員会型であろうと監査役型であろうと、激しいグローバル競争の中で企業を成長させていくためには、経営者としての実績だけでなく、執行役員に負けないぐらいの愛着と情熱をその会社に注げる社外役員が必要だ。政府が過半の株式を保有する東電、不祥事にまみれたオリンパスも、取締役の過半数を社外から招聘して経営の再建を目指す。委員会型企業の経営改革への志が「ビッグネームの落とし穴」にはまらないよう、願うばかりだ。

(文責:大谷 清)


コメント

袈裟や馬子の衣装とならないように-全く同感です 安田正敏 | 2012/05/07 10:45日立製作所が4月24日に過半数の社外取締役候補を発表した際、同じ感想を持ちました。同社がホームページ上で主張するようにこのようなコーポレートガバナンスの形態が重要と本当に信じているのならば、なぜ経団連でイニシャティブをとって社外取締役制度を主張しないのでしょうか。法制審議会会社法制部会に同社からでておられた役員は全く反対の主張をしていました。


オリンパス社のガバナンス体制にも注目 門多 丈 | 2012/05/07 11:38

新生オリンパス社の取締役会は社外が過半数を占める構成になりました。この取締役会の課題は、当社の向かうべき戦略を決定し経営執行陣を監督すること、中長期的な企業と事業の成長戦略を策定し、れに基き経営執行陣と明確な数字目標を取り決めることと思います。取締役会がガバナンスの実を上げるには、執行陣が取締役会に上げるべき情報を恣意的にコントロールしないような仕組みを作ることも重要と思います。

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