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ソニーの新しい取締役体制とサムスンのガバナンス 大谷 清

2012年05月14日
ソニーが社外取締役を減らし、home grownの取締役の数を増やす。社外に依存しすぎた取締役体制を微修正する動きだろう。ライバルのサムスンは米国型のガバナンス体制を、賢明なオーナー経営者の手で上手に運用し、成長を続けている。ソニーの新しい取締役体制とその運用が再建への一歩になることを期待したい。
ソニーが6月末の株主総会で社外取締役の数を減らし、社内生え抜きの執行役から取締役を2名ふやす取締役人事案を発表した。新しく取締役に選任される(予定)のは社長に就任したCEOの平井一夫氏とCFOの加藤優氏。退任予定は取締役会議長を務めてきた元富士ゼロックス会長の小林陽太郎氏、トヨタ自動車会長の張富士夫氏、元慶応義塾塾長の安西祐一郎氏、元三井住友フィナンシャルグループ取締役の山内悦嗣氏らビッグネームたちだ。

当然の判断で、歓迎されることだと思う。執行役としてビジネスの最前線で仕事をしてきた人材が取締役会に増えれば、その分、正確でアップデートな経営情報が取締役会に上がるだろう。社長を辞任したハワード・ストリンンガー氏は取締役会議長として残り、社外取締役(候補)として新たに知的財産に詳しいとされる公認会計士の二村隆章氏が加わる。

これでソニーの取締役会は今の社内2人、社外13人の計15人体制から、社内4人、社外10人の計14人体制に代わる。ささやかな修正に過ぎないとの見方もあるが、新しい体制が業績回復への強い決意と責任、すばやい実行力を伴ってソニー再建への第一歩になることが期待される。

いまやソニーをはるかにしのぐ存在になったサムスンは、1997年のIMFショックを契機に、いわゆる財閥経営の改革と米国型ガバナンスの導入を迫られた。新たに米国型の取締役会を新設、米国、欧州、日本などからビッグネームを社外取締役として招き、新しいガバナンスをスタートさせた。3割もの人員削減で生き残りを模索せざるを得なかったほどの危機が、それまでの同族経営の修正を迫ったものだ。

しかし李健熙(イ・ゴンヒ)会長は、新しい取締役会をその後のグローバルな事業展開に上手に活用することはあっても、決して経営のスピード、戦略決定、リスクテイキングなど本質的な経営に影響を及ぼすような存在にはしなかった。その一方で事業部門の社長など執行部の業績評価と人事にはpay for performanceの米国型の大胆な人事制度を導入、今日の活力と優秀な人材が世界中から集まる組織への基礎を築いた。

経営危機がオーナー経営者の経営に対する強い危機感と責任感を一層強め、ガバナンス変更の長所だけを取り入れるという、賢明さと強さが発現したといえる。李会長の賢明さは日本企業に対する評価、コメントにもあらわれている。業績低迷に苦闘するソニーやパナソニックなどを横目で見ながら「まだまだ学ぶべきところが多い」と社内の慢心に釘を刺し、慎重な表現を続けてきた。

その一方で今年1月、ラスベガスで開かれた「CES(コンスーマー・エレクトロニクス・ショー)201」ではさすがに「日本企業の力は少し落ちたようだ」とコメントした、と伝えられて注目された。彼が日本企業について語らなくなったときこそ、日本企業が自らを深刻に受け止めるべき時だろう。

スズキも6月末から社外取締役を導入し、元中国大使の谷野作太郎氏、自動車工学の専門家で元東大教授の井口雅一氏を招くと発表した。スズキもサムスンに似てトップの強烈なリーダーシップに支えられてきた企業として知られる。企業のガバナンス体制とその運用は一律である必要は無く、それぞれの企業の強みを最大限に発揮する独自の知恵の産物であっていいと思う。

(文責:大谷 清)


コメント

ストリンガー氏、社外取締役には説明義務あり 門多 丈 | 2012/05/15 13:08

社外取締役が有効な議論を行い、実質的に貢献できる枠組み
つくりが大事と思います。ストリンガー氏が取締役会議長になることは大いに異議があります。今まで経営のかじ取りに失敗した人が議長としてどのような役割を果たすのでしょうか。

また従来の社外取締役には下記の点について説明義務があると思います。

1) 4500億円もの今季の巨額な損失について事前に何かできなかったか、同社のリスク管理の問題
2) 中国で年間テレビが5000万台製造されるような業界で製造業を指向した戦略を、どう議論したのか。映像処理技術や、コンポーネントビジネスに力を入れる選択肢は議論しなかったのか
3) 取締役会に経営執行陣から的確な情報が十分上がっていたのか。

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