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ハーバード大学のガバナンス改革と東大の秋入学 大谷 清

2012年05月09日
ハーバード大学が1650年の創立以来といわれる大規模なガバナンス改革を進めている。卒業生を中心とした外部の関与を質、量ともに増やし、圧倒的な国際競争力をさらに強めようという狙いらしい。私立と国立(大学法人)という違いはあるが、東大も秋入学ぐらいの改革だけではとてもワールドクラスの大学には追いつかない。
ハーバードの統治機構は米国の大学には珍しいダブルボード。日本で言う理事会(役員会)にあたるHarvard Corporation と、学長を含めたCorporationのメンバー(現在10人)を選出する権限を持つ The Board of Overseers。ハーバードの公式資料などを読むと学長の選任、専門職大学院を含む大学全体の戦略的な方向、戦略の順位など重要な決定を下し、その執行を監視するのはこのThe Board of Overseers.のようだ。

今回の改革の主なポイントは①創立以来6人だったCorporationのメンバーを2倍の12人にする②fiduciary concern(受託者の視点)からCorporationに財務、施設&資本計画、ガバナンスの3委員会を新設する③Overseersとの共同委員会を設置、共同作業を増やす、こと。2008年のリーマンショックを受け、CorporationとOverseersが共同で組織した委員会が2010年12月に提出したリポート(Harvard Corporation Governance Review Committee Report to the University Community,) に基づいた改革だ。

基金2兆円、世界でもっとも潤沢な財務を誇るハーバードといえども、2008年のリーマンショックには少なからず影響を受けた。創立以来初の女性学長として2007年から執行責任者を務めているファウスト女史の最大の関心は資金計画と財務、それに外部資金の配分だ。

ノーベル賞受賞者75人を誇るハーバードといえども、規模の拡大とグローバル競争の激化を受け、今後とも世界的な競争優位を保つためには財務基盤のさらなる強化と戦略分野への重点的資金配分が欠かせない。それを間違えば世界最高の教育・研究機関としての評価は落ちてしまう。執行部の切実な要望にこたえて卒業生の組織the Board of Overseersがガバナンス改革に動いた。

Overseersのメンバーは現在30人。メンバーは世界中の卒業生が選び、執行部のCorporationからは学長と財務担当理事が加わっている。任期は6年。前述したように学長の選任から戦略決定とその執行の監視に加え、特徴的なのがVisiting Committeeの存在。学部や大学院のプログラム審査を定期的に行う委員会で、教育方法につねにイノベーションが持ち込まれているか、国際戦略は適切か、などイェール大など競争的立場にある大学をベンチマークしながら調査し、詳細なレポートをOverseersに提出する。その作業に費やす卒業生メンバーの負担は少なくないと思われるが、それだけ評価レポートが学部や大学院の運営に与える影響力は大きい。

東大など日本の大学にも卒業生を中心にビッグネームをそろえた経営評議会なる組織が存在する。しかし東大の機構図や経営協議会、役員会の議事録などを見る限り、経営評議会は案件を諮問される機関で役員会の上位機関ではない。経営ライン上、ハーバードのOverseersほどの強力な権限は与えられておらず、開催回数も年間5-6回。したがって経営評議会メンバーが戦略策定やその執行の監視に関与する度合いも小さいと見るべきだろう。

考えてみれば日本の国立大学法人のガバナンスは総長や学長を頂点とするそれぞれの大学の執行機関に加え、大きなフレームワークについては中央教育審議会(中教審)や文部科学省の影響の元にある。しかし東大の資料を見ると平成21年度の収入約2200億円のうち国からの運営交付金は762億円で全体の35%、外部資金はそれを上回る773億円だった。5年前の平成16年には交付金は827億円で41%、外部資金は620億円で30%だったのに比べると、交付金への依存度が低下、逆に外部資金への依存度が増えている。

資金の出し手を株主に見立てれば国の持ち株比率は40%を切り、逆に民間株主が3分の1を超えている。今後も国の交付金は減り、外部資金の獲得が国立大学法人の競争力を決める鍵になることを考えれば、資金の出し手の変化に合わせた大学の新しいガバナンスのあり方を真剣に考えるときではないか。

東大は国際化を進めるために秋入学を打ち出したが、その先の行動が必要だ。法人化してそろそろ10年になる。卒業生を中心にグローバルな知識と経験を持つ豊富な人材の力をもっと活用した独自のガバナンス体制を作り上げ、国際競争に打って出るべきだろう。

(文責:大谷 清)


コメント

大変興味深い取り組みです。 門多 丈 | 2012/05/12 11:34

この仕組みは大学のみならず、独立法人やNPOにも応用すべく考えたいですね。このようなシステムを構築できるのは、やはり社会全体がコーポレートガバナンスについて習熟している米国であるからとも言えますね。

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