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AIJ投資顧問/年金消失事件の本質 門多 丈

2012年03月01日
AIJ投資顧問/年金消失事件の本質は年金基金、投資顧問の双方でのガバナンスの欠如である。独立系投資顧問会社やファンド投資全般についてのネガティブな論調は合理的ではない。運用がブラック・ボックス化していたことに問題があったのである。
AIJ/年金消失事件には投資の判断と管理についての年金基金の受託責任、投資顧問会社の運用の透明性(情報開示)と利益相反の問題があった。事件の本質は年金基金、投資顧問双方でのガバナンスの欠如にあると思う。

今回被害に会った年金基金には投資リテラシーが備わっていなかったことは明らかである。年金基金の投資の責任者やその監督の責任にある投資委員会が投資の判断(投資対象のファンドの理解、リスクリターンの見極め)をどのように行ったか。ウォーレン・バフェット氏の言うように「分からないものには投資しない」規律も必要だ。投資顧問会社の選択、運用委託後の監督などのリスク管理も不十分であったのではないか。一部の年金が資産の3割以上をAIJに運用委託していたことは、リスク管理の点からは論外である。

AIJの行為は明らかに詐欺であるが、運用の透明性(情報開示)と利益相反の点から精査すれば被害を防げたと思う。国内の一任勘定とオフショアファンドの運用者が実質的に同じであったことは問題だ。AIJが直接に証券投資をする形であれば、個別の投資証券の開示が必要であったが、オフショアファンドを間に入れることで、運用の詳細がブラック・ボックス化していたのである。かつては、一任勘定ではファンド投資は認められなかったが、この(運用のブラック・ボックス化の)懸念も背景にあった。AIJ投資顧問社と同一グループにあるアイティーエム証券との関係は、まさに利害相反だ。同証券は一任勘定組入れのためのファンド販売を行うとともに、ファンドからの証券投資の受発注にも関与していたようだ。通常ヘッジファンドでは投資の執行については第三者であるプライマリー・ブローカー(投資銀行)などが行うような仕組みとなっているが、今回の件ではそのような仕組みを作っていない。ファンドの監査済み会計報告を年金基金が入手できるようになっていたとも思えない。これでは架空投資など「何でもあり」である。ファンドの価格情報をアイティーエム証券が偽って提供していたことで、年金基金のポートフォリオ評価の面では問題となった。このようなリスクを防ぐためには、投資顧問会社自身のガバナンスの強化が必要であり、社外取締役・監査役がチェックし監督することが必要と言える。

年金基金の運用にはコンサルタントの関与が望ましい。ポートフォリオ全体のアセット・アロケーション(資産配分)や個別投資や運用マネージャーの選択について専門的にアドバイスをコンサルタントは行う。今回被害に会った多くの総合型の厚生年金基金は「財政難」のためコンサルタントを起用していなかったようだが、この悲劇は国の年金制度自体の問題と言える。本来は、信託銀行にもこのような役割を期待すべきだが、運用が年金基金のガイドライン中で行われており、ファンドの価格を外部から入手できていたため、深くは調査しなかったようである。

今回の事件を契機に後ろ向きな議論が出てきている。独立系(カタカナ名)の投資顧問会社への不信である。効率的な運用を行い然るべき運用収益を実現することが年金基金の使命である。その点からは運用業者の専門性と独立性は、欧米の年金の運用委託の重要な基準となっている。今回の事件でもファンド自体が悪いのではなく、運用がブラック・ボックス化していたことである。高リスク投資商品投資を一律に規制するのも合理的ではない。投資顧問会社を「登録」制から「認可」制に戻すことで、問題解決になるだろうか。AIJは2000億円の運用受託をしていた投資顧問会社であり、金融庁がリスクフォーカスのアプローチからは同社の運用と管理の実態を然るべきタイミングで検査しなかったのが問題なのである。

(文責:門多 丈)

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