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AIJ/年金消失事件の本質(2) 門多 丈

2012年03月19日
AIJ/年金消失事件でのAIJ投資顧問の詐欺的行為は論外であるが、年金基金の受託者としての責任の面での問題も深刻である。
まずは、投資にあたっての精査(デューデリジェンス:DD) が適切に行われたとは思えない。運用会社のリスク管理プロセス、リスクを適切に管理する適切な安全装置が備わっているかについてのDDが不足していた。ある業界関係者は「AIJ投資顧問のオフィスを見れば、然るべき運用のできる体制でないことは分かったはず」と言う。DD以前の問題であったのである。

ポートフォリオ管理と投資の判断も未熟であった。資産の30%以上も同一マネージャーの「リスク運用」に配分するのは、分散投資の原則からは異常である。また投資対象のリスク・プロファイルついての検討も足りない。まずはAIJのファンドがハイ・リスクなのかロー・リスクなのかを定義から始めるべきである。AIJファンドがハイ・リスクであればそれに応じてのハイ・リターンであるかの分析、ロー・リスクであれば何故ハイ・リターンが可能かのロジックの解明、が必要なのである。

年金基金がDDや投資の意思決定を責任もって行うためには、やはりコンサルタントの専門的なアドバイスやサービスが必要であろう。現在は年金基金の資産管理にはパッシブな関与になりがちな信託銀行の活用も、今後の課題となる。

資産管理の面では、「(ファンドの中での)資産の実在性の確認や、キャッシュフローの保全」の重要性が今回の事件の教訓である。ファンド・資産の妥当な価格を入手する課題もあった。資産の預かり口座の内容および資産残高の照合については、投資顧問会社の報告を鵜呑みにするのではなく、第三者であるカストディアン・アドミニストレーターのレポートを直接入手する仕組みを設けるべきであった。年金基金の受託責任の点からこれを強く主張すべきであり、投資顧問会社は運用・管理報酬をもらっている立場からもこの要請は拒否すべきではない。

今回の事件の最大の責任者は国にあると思う。5.5%近くの高い予定利率を年金基金に課し、その積み不足が解消しない限り代行返上も認めない。総合型年金基金は寄せ集め的な組織で、積み不足を補填する有力な企業スポンサーがいないのも実状である。政府、厚労省がこのような状態を放置し救済手段を講じないで中で、リスクを無視した乱暴な運用を企業年金が行った事件なのである。この問題の基本的解決の政策を検討しないで、年金基金、投資顧問会社の監視と規制を強化するだけでは問題の根本的な解決とはならない。

(文責:門多 丈)

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